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ノるの? ノらないの? 4
~小林side~
二人のこれからが変わってしまったあの夜と同じ、ひどい雨の日だった記憶がある。
夜勤の父親に、母親は遠縁の葬式で出かけていた。
かなり遠縁だったこともあって、俺と弟は不参加。
計画していたわけでもないのに、準備していたかのようなタイミングの夜。
昨日めでたく二十歳を迎えた弟を、父親も時間がない中で家族全員で祝って揃ってケーキを食べた。
弟が好きだと聞かされていたケーキを、俺が開店から並んで買ってきて。
母親がネタバレした時に、弟が喜んで二つも食べている姿を見てホッとしたんだ。
あの夜から触れに来ることがなくなっていた弟との距離感に、もう何も起きないはずだと思い込んでいた。
兄弟らしい距離感で、常に俺のそばにいて、何か困っていたら最初に声をかけてくるのは弟だった。
単純に助け合える兄弟の形に近づけたんだと、短絡的思考回路で喜んでいた俺。
二人きりの夜にピザを頼んで、二人で最近流行りのお笑いの動画を一緒に見たり。ただ、楽しい時間を過ごしていただけ。
「案外辛いものが好きだったんだな、お前」
目の前でハバネロたっぷりのピザを、平気でパクつく姿を見て笑う俺。
「だって、発泡酒に合うだろ? 辛い方が」
そういって、発泡酒を呷ってドヤ顔をする成人なりたての弟をみて、三年前の俺はどうだっけななんて思い出していた。
弟が成人になったことで父親から解禁になったアルコールを、弟と二人で飲みつつピザをパクつく。
こういう仲がいい兄弟の姿が、俺が望んでいる兄弟だと内心思いつつ、もうひとつ…とピザに手を伸ばす。
「…あ」
指先にピザソースがつき、弟の方にあったティッシュを取ろうと伸ばした手を弟がつかんだ。
「そんなもん使わなくても、キレイにするのに」
呟いたと同時に、昔よりも長くなった髪を耳にかけてから俺の指先を自分の口元に近づける。
予告なく、急につかまれた手。
気づけば弟の舌先がピザソースをぺろりと舐めとっていて、俺は固まったままその姿をみていた。
指先についたピザソースはとっくになくなったのに、弟は俺の手を離そうとしない。
「あー…む、ん」
指先をぱくりと咥えて、口内で舌先を使って指先を撫でるように舐めていくのを感じる。
関節のあたりに舌先が触れた瞬間、思わず声がもれた。
「…んっっ」
と。
自分の口からもれた声に、一番驚きを隠せないのは俺。
恥ずかしさに一瞬だけ弟を見れば、目尻を下げて俺を見ている。
反射的に手を引き抜こうとしたのに、俺の手は弟に捕まったままだ。
「…くっ、……離、せ…っっ」
力を入れている様子はどこにもないのに、どうやっても離してもらえない。
くちゅりくちゅりと、弟の口から唾液をかき混ぜるような音が続く。
その音の原因の中には、俺の指が含まれているのに。
舌先で散々嬲った後に、弟はその指をまるで“そういう”モノみたいに自身の両手を俺の手に添えて顔を前後に動かしていく。
どこかで見たことがある姿に、心臓がドクドクと強く鳴り響く。
自分の手なのに、違うモノを見ている感覚にもなっていく。どこかぼんやりとしながら、弟をも違う何かのように錯覚していく俺。
ふやけるほどにしゃぶりつくした後、舌先でツツ…ッと指先に残る唾液を舐めとるようになぞってようやっと解放された俺の手。
「…お前……っ、な、なにして」
うまく言葉が紡げない。動揺が隠せない。
まだどこか弟の舌の感触が、この手に残っている気さえする。
「ね。今ので、気づけなかったの? 本当に」
静かなリビングで、弟のよく通る声が響く。
「気づけ…? 何のことだ」
目の前で微笑みつつ、意味不明なことを告げてくる。
「あの日、二十歳になるまで俺の心に触れて、好意を持てたら…って言ってくれたよね? 悠有にい」
あの日から呼ばれなくなっていた呼び方が、俺へなにかの答え合わせを求めてくる。
「俺はね、俺の気持ちを優先しつつ、悠有にいが求めていたんだろう恋から恋愛に変わっていく早さに付き合おうとしたんだよね」
恋から、恋愛? 早さ?
「急に距離を詰められるのは、悠有にいの好みじゃない。そうわかったから、何かにつけ悠有にいが困っている時に役に立つ弟になろうとした。でも、自分でやることも失くしたくないって思っていた悠有にいの気持ちもわかっていたから、何もかもを手出しはしなかった。……ここまでは、悠有にいの好み…合ってる?」
誰かに甘えることを好ましいとは思っていない。甘えっぱなし頼りっきりは嫌だ。
なぜなら、体のことで同年代よりも知識も能力も何もかもが遅れがちな俺の、ささやかなプライドだ。
自分で出来ることは、時間がかかっても自力でやれるところまではやりたかった。
でもそんな話をコイツにしたことはないし、母親にだってどこまで理解してもらえていたかわからない程度なのに。
「どうしてって思ってるの? 顔に出過ぎだよ?」
弟はふふ…と笑ってみせてから、俺の顔を覗きこむように小首をかしげてから体をすこしだけ前に傾けた。
「……ヤダなぁ、悠有にい。好きな人のことは、ずっと見ているんだよ。普通は。観察って言ってもいいくらい見続けて、分析して、愛されるために相手が欲しているものを察せる人であろうとするんだよ? 幸いかな、俺は家族だったからね。いつも…いつだって、悠有にいのいろんなとこ見られて幸せだったな」
口角を上げて、噛みしめるように幸せだったと呟く彼に。
「俺ね? 悠有にいの全部、欲しくて欲しくて…でも言えなくて。それでね? 観察していたのと同じで、悠有にいが困ったり傷つかなきゃ、勝手にもらうことにしたんだよ。…ね、偉い? 褒めてよ、悠有にい」
俺の全部が欲しいといいながら、勝手にもらっていった?
「どういう…」
目の前で明かされた話の意味がつかめない。理解できない。
「何の…こと、だ?」
反抗期でもなきゃ、思春期でもなく。あの夜の彼の姿でもなく。似ているけれど、どこか違う。
あの日よりも大人びた顔つきには、今までにない違和感がある。
「俺が知らないところで、なにか…していたのか?」
気づけば俺の手に重なる弟の手があって、ギュッと強めに握られて顔をしかめる。
「したよ? たくさん。……悠有にい、ちっとも起きないんだもん。ビックリしちゃった」
起きない? 寝ている間? どちらかといえば俺は眠りが浅い方で、体のどこかに痛みを感じたらすぐに反応してしまうほど。それはきっと、これまでの入院生活での弊害みたいなものなんだろうけど。
「お前……何してきた? 俺に」
そんな俺が起きないだなんて、違和感がないわけがない。
「俺に何飲ませた? もしくは、食わせた…の方か」
一定の距離を保ったままの、兄弟らしい関係。それが続いたのは、きっとコイツ自身の自制心の効果だと思っていた。
もしくは、俺への気持ちがなくなったからかもしれないなどと、ちょっとだけ期待をしたりもして。
触れてこない代わりだったのか? アレは。
ある日を境に、夜に俺に夜食だと食べ物や飲み物をやたらふるまってくるようになった。
いつか一人暮らしをしても困らないための練習だから、毒見係になってよとか言われて、何も考えずに受け入れていた俺。
考えられるのは、俺が眠れる状態にした……ということだ。
どうにかして、その薬剤かなにかを手に入れたんだろう。
父親が医師だと言っても、勝手に薬を拝借だとか盗んできてよなんてことは出来ないはずだ。
「だーいじょうぶ。体への負担はかかっていないでしょ? 実際。これでも頭はいい方なんで、ちゃんと考えて処方したんだよ? 褒めてよ」
何をどう褒めれというのか。自分が眠っている間に、何かをしてきた相手に対して。
「俺ね? 兄貴がどっちがいいのかわからなかったからさ、どっちでもいいように準備してあるんだ。もちろん
準備は、兄貴サイズのモノでやってきたし、やり方も履修済みだよ?」
「…………は?」
言われた内容を咀嚼できない。
脳内でこれまで読んできたBLで、特に体の関係があったものを思い出すけど、思い出したくない気持ちの方が増してくる。
(…いや。BLマンガは、何も悪くない。…けど、今は思い浮かべたくない)
のに、勝手に見慣れた絵柄で脳内再生されてしまう。
BL展開の上で、“準備”といえば、使う場所をほぐして交わる時に痛みが少なくなるようにすることだ。
ほぐれてもいない場所にただ突き刺すような行為は、痛みだけを与えてしまうと記憶している。
「俺の気持ちは、あの時と何一つ変わってないよ。悠有にいが俺に聞いてきた、誰かを好きになるってどんな気持ち? っての…あったよね? 俺ね、あの日からずっと考えた。俺の好きの形はどんな形なんだろうってさ」
たしかに聞いた記憶がある。ただ、それを聞いた時の弟の表情はどこか歪んでいたはずだ。
それを聞いて兄貴は…と言いかけて、その続きの言葉を飲み込んでいたはず。言葉の続きはその後、どれだけ経っても聞くことがなかった。
「あの時、俺からその答えを聞いて、悠有にいが変わってくれるなら思っているままに伝えようと思った。でも、悠有にいはこっちがどんな気持ちで内緒で想いつづけて、その気持ちを明かしたのかなんて考えてもくれず。どこか羨ましそうに、子どもの興味心に近い感情で聞いたんだろうなって思えた。……そしたら、さ。どうせ言っても、理解は得られないってわかって…言うのをやめた。言えば、もっと自分が傷つくってわかってて……言いたくなかったしね」
「……一葉」
滅多に呼ばない弟の名を呼べば、ニコリと口角を上げて笑い。
「嬉しいな。名前、滅多に呼んでくれないからさ。……悠有にいが呼ぶとね? 特別なんだよ。嬉しくて嬉しくて、心が躍って……キス、したくなるんだよ?」
重なったままの手に、さらに力がこもったかと思うと。
「…好き、悠有にい」
覗きこむように、そこのあった弟の顔が一瞬で近づき。
「好き…」
ふにゅ…と唇が、重なり。
「好きだよ、悠有にい」
手を重ねたまま、グッと引かれたかと思えば、俺の体がぐらついてそのまま弟を押し倒すようにソファーへと倒れこんだ。
その瞬間、片手はつながれたまま、彼の反対の手が俺の後頭部を包むように触れて俺からキスを求める格好になる。
細っこい体のはずが、こんなに力があるなんて。
「ん、む…っ」
俺が意図しないタイミングで、勝手に頭が前後しては弟へと触れるだけのキスを繰り返していく。
その隙間に紡がれるのは、弟からの告白ばかり。
「は…ぁっ……好き、大好き…ん……っ、悠有…に、ぃ」
上手く出来ない息継ぎ。勝手に開いてしまう唇の、その隙間。
息継ぎのタイミングを狙っていたように、すべり込んでくる生温かい舌先。
初めての深いキスに、頭と体が連動しない。混乱していく。
体全部を預けてしまわないようにと、なんとか膝立ちの格好で堪えていた俺。
「……あ、やっと…反応、してくれた」
やっと離れた唇。その代わりに触れてくるのは、のしかかったままの俺の下半身で熱と固さを持ちはじめたナニカに、彼の手が触れるか触れないかのギリギリで。
「今日は使ってないのにな、薬」
その輪郭をなぞるように、触れていった。
直接その体に触れていたわけじゃなかったのに、俺の一部分が反応し始めたことに気づかれてしまったんだ。
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