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「ねえ。いつ必死になんの?」 4
~白崎side~
昼休みが終わって、体育館の方に応援に行ったり、参加するちーと一緒に選抜リレーに出る人を激励に行ったり。
時々遠くに目を向ければ、保健医の先生の横にいる先輩の姿が目に入ったりもした。
ささやかな約束。今度こそ叶えたい。
少し風が出てきて、ジャージの上を着るか着ないかでまわりがザワつく。
そんなのに構いもせずにいれば、一年生のリレーの方に向かっていたはずのちーが僕の背後にいた。
「なーにやってんだよ、風邪ひくだろ? ちゃんと着とけ」
僕がジャージの上を着ていないからって、あそこから走ってくる?
「…バッカじゃないの? 自分は着て行かないの?」
「これから熱くなるってのに、着てくわけねえだろ?」
言ってる意味はわかるけど、逆に心配になる。
「リレー終わったら、ちゃんと着なよ? 上」
「わかってる。…だから、預けた」
「預けた?」
その言葉に首をかしげて、背中に掛けられたジャージの胸元を確かめた。
「小鳥遊って書いてあるし!」
「だから、預けたって言っただろ? 一位取ったら、迎えに来いよ」
「…めんどくさいことを」
「言うと思ったぜ、鈴なら」
なんて言いつつも、僕が呆れてたって嬉しそうなんだから。しょうがないから、発破をかけるか。
「……じゃあ、返してほしくば、一位取ってくるんだね」
僕がそう言えば、親指を立てて「アンカーの俺にまかせとけ」と宣言して、急いで戻っていった。
ちーのその言葉に、うちのクラスは盛り上がる。
「いちねぇん…さんくぅみぃいいいっっ、ふぁいっとぉーーー!」
「うぉおおおおおお!!!!」
普段そこまで大声を出さない委員長が、めちゃくちゃ張り切ってリレーのみんなへとコールを送る。
入場しながら、みんながコッチに手を振っている。僕も一緒に振り返す。
(ああ…楽しいな)
入場した選手が、途中で別れてそれぞれのコーナーへと進んでいく。
ちーはアンカーだから、他の選手よりも長く走ることになる。いつ聞いても、練習を見に来るなって言われて見せてもらえていない。
体育の授業で見ただけの速さじゃないって誰かが言ってたけど、そんなに速いのかな。スタミナは大丈夫なのかな。
(自分が走るわけじゃないのに、ドキドキしてきた)
ちーのジャージの名前のところを、ぎゅううっと握って、ちーを見守る。
…と、複合競技の時に一緒になった紫藤先輩との会話を思い出した。
あの時の僕が引いたカードは、『名前を呼ばれたことがある先輩か後輩』だった。
本当は黒木先輩と思っていたけど、ちーと決めたことを守りたくて他の先輩たちへ視線を向けた僕。
紫藤先輩が小さくおいでおいでと手招きしたのが見えて、カードを見せると「白崎くん、行こっか」とその場で名前を呼んでくれた。
「さくちゃんじゃなくて、ごめんね」
一緒に駆けながら、笑顔で話しかけられて苦笑いで返す僕。紫藤先輩は思いのほか足が速くて、僕はその背を追うように走っていく。
途中で紫藤先輩が、黒木先輩に手を振ってた。大きな声で名前を呼びながら。
ゴールしてから、他の組が終わるまで並んで待機する僕と紫藤先輩。
「…んね。ちょっと聞いてもいい?」
身を寄せてきて、こそこそひそひそ話す僕たち。
「なんですか?」
まだ息が上がっているままの僕に、紫藤先輩が囁いた。
「さくちゃんのこと、試してんの? もしかして」
と。
試してる…と言えば、聞こえはあまりよくないかもしれないけど、やってることは近い。
「近からず遠からず、です。…紫藤先輩は、黒木先輩の友達だし…その…先輩の味方、ですよね」
どこまで話していいのかわからず、探るように問いかけてみればニッコリと微笑んで。
「どっちの味方でもないよ、俺」
あっけらかんという感じで、呟いた。
「俺はね、まわりが楽しく過ごしてくれてたら、俺も楽しいわけ。その中でさ、好きな奴がずっと笑ってくれてりゃ尚いい。…けど、バカなことやってたら、バカだな? ってつつくだけ。俺って、そんなもんだよ?」
そうなのか…と言葉のままに受け取って、うなずく僕。
「っていってもさ、さくちゃんは…バカだから。頭よさそうで悪いんだよ。なんていうの? 直情的? ね? バカでしょ? で、後輩ちゃんはといえば…いろいろ考えすぎっぽいし、理屈で頭がパンクしそう。…違ったらごめんね?」
そう言われて、自分のことはわからないなとヘラっと笑っておく。
「どうせ、さくちゃんが何かやらかしたんでしょ? こんなに後輩ちゃんが無理して頑張ってる理由は、さ」
肩が揺れる。まさか、ほぼ核心を突かれるとか思わなかった。…こんな、競技後の整列した場所で。
「深くは聞かないよ。当事者じゃない人間がいくら話を聞いたところで、何をどう選択するかなんて当事者にしか権利はないんだから。……でしょ?」
紫藤先輩が、僕の肩を優しく叩く。
「本当に好きなら…がんばんな? そうじゃないなら、ハッキリさせな? 全員が笑って迎えられるエンディングなんてもん、存在しないのはわかってるからね。俺は」
すこし意味深な言葉を呟かれ、”全員が”と強調された意味を聞こうとした瞬間。
「終わったみたいだよ? 一年生のは。…さ、立とうか。…って、可愛く着けてるよね。ヘアピン。目がよく見えて、いいんじゃない? 前髪結構伸びちゃってるからねー。…切らないの?」
話しながら、先輩が自分の前髪を指さして微笑む。
ピピピッと笛が鳴って、駆け足をして入場のアーチの方へと走っていく僕と紫藤先輩。
「まだ切りません。…もうすこしだけ、伸ばします」
かろうじてそう返事をすれば「…そ? じゃあ、目に入らないようにね?」とヘアピンを指さして笑う。
「一緒に走ってくれて、ありがとうございました」
テントそばまで戻りながら、感謝を伝えると。
「まったねー」
なんて、歌ってるように弾んだ声で返してから、三年のテントの方へ消えていった。
そんな会話を振り返り、ため息をそっとこぼす。手には、ちーのジャージを握りこんだまま。
僕は、さっき紫藤先輩と話したことが引っかかったままだった。
「全員が笑って迎えられるエンディング、かぁ」
紫藤先輩は、僕が思っているよりも頭がいいんじゃないかな。前にもらった過去問の中でも、紫藤先輩の物は群を抜いて点数がよかった記憶がある。
(点数だけでわかる頭の良さとは違う、別の頭の回転のよさとかいろいろありそうだけど)
先輩のまわりには、いろんな人がいる。ほんの少しの期間だったけど、その輪の中に混ぜてもらったのは懐かしい。
(あの時間は楽しかったなー)
その時間はもしかしたら、もう…手に入らないのかもしれない。
眉間に力がこもってしまう。泣きだしそうになるのを、何とか堪える。
高く鳴る、スタート前の笛の音。数秒後に鈍く空に響いた、パァン…というあのピストルみたいなのの音。
一気に駆けていく足音が固まって響く。まわりのみんなの声援が、他の音が拾えないくらいに自分を包み込む。
半周ずつ五人が走って、アンカーだけが一周走っていくのは聞いていた。
目の前で、第二走者のランナーにバトンが渡された。ものすごい速さで走り去っていく人たち。順番もめまぐるしく入れ替わる。
「今! 一位だ! このままいっけぇえええー」
委員長が大声で叫んだその瞬間、目の前でまたバトンが渡されるのを待つだけのはずだったのに。
第三走者から第四走者に行く直前のカーブで、転倒。同率三位くらいになり、転倒したクラスメイトはクシャクシャの顔をして第四走者にバトンを渡した。
第五走者から最後のバトンを待つために、ちーがアンカーのタスキを掛けて出てきた。
僕に気づき、こんな時なのにコッチに向かって投げキッスなんかしてる。
「小鳥遊ぃいい! 真面目にやれよ!」
「まっかせてー」
大声でちーが委員長に手を振って返していたら、あっという間に第五走者が走りこんできた。
ちーがすこし身を屈めて、手を後ろに差し出すようにしてその瞬間を待つのが見えたんだ。まわりにも緊張が走った。
ゴクッと生唾を飲む。
ドキドキする。
同率三位のままで、一位はすこし先を走っている。このまま行けば何とかいけても二位止まり。
僕はそう予想していた。
『ちゃんと俺のことも応援してくれるんだろ?』
ちーはそう言った。
『一位、お前にくれてやるよ』
そうも言った。なんなら、小指にキスまでしてった。
先輩のこととは別で、ちーは大事な人だ。それと、約束を違えることは絶対にない! って。
(信じてるからね、ちー)
心の中でそっと呟き、バトンがちーに渡る瞬間、僕は自分でも驚くほどの大声で叫ぶ。
「ちーーー! ブチ抜け―!」
角度的に彼の表情は見えなかったけど、きっと口角を上げて笑ってた気がした。
「そうだー! ブチ抜け! たかなぁしぃい!!!」
「わぁああああ!!!!!!」
僕の叫びに乗るように、みんなもブチ抜けと叫ぶ。
「ちー! いっけぇー!」
ものすごい速さでちーが走り去っていく。同率三位だった一組をあっという間に離して、次いでほんのちょっとだけ差があった二位の四組をあっさり抜く。
その先に半周くらいの差がつきかけていたはずの二組のアンカーは、陸上部だって聞いてたんだけど。
「うっそだろ? アイツ…うちの陸上部のやつより速くねえか?」
隣のテントの二組がざわついている。
あっという間に一位に追いつき、余裕しゃくしゃくと言わんばかりに目の前を走り去っていき、二位にも差をつけてゴールした。
「すっげ! 小鳥遊、すっげぇ!」
「すごい! すごい! すごい!」
「やった! うちが一位だ!」
あまりの嬉しさに、大騒ぎだ。
僕は彼との約束のことなんか忘れたように、盛り上がるテントの中から飛び出す。そんなの関係なく、体が勝手に動き出していた。約束を思い出したのは、その場所に近づくあたりになってから。
でも、すぐにはちーのところには行けず。
他のランナーも駆け足で戻ってきてからになるのを、焦れながら待っていた。
一年生の選手が退場する間、入れ替わるように二年生が入場のタイミングを待っている。
僕たちよりもすこし大きな体の先輩方の一人と目が合って、「がんばってください」となんでか声をかけてしまった。
一瞬ポカンとされたものの、「ありがとうな。応援よろしく!」と親指を立てて返してくれた。
真似るようにして親指を立てて、それを返事とした僕。
程なくして、みんなが帰ってきた。
「おかえり! おつかれさま! みんなカッコよかった! …あ、ケガ大丈夫?」
転んじゃったクラスメイトに声をかければ、案の定しょげてて。
けど、ちーが彼と肩を組み、こう呟く。
「俺のカッコよさを引き立てるための演出だったんだって。…な? ナイス転倒! …ほら、そこまで血も出てねえだろ? 転ぶの上手そうなやつに頼んどいて、正解だったな」
なんてね。
「……ま、まあ…俺はその辺のテクニックだけはあるから。任せといて正解だったろ? 小鳥遊が速すぎるからな? あれくらいしなきゃ、大差がつきすぎて面白み半減ってな?」
ちーの言葉の意味がわかったのか、苦笑いを浮かべつつもその言葉に乗る彼。
「でも、念のために診てもらうんだよ? 後でもいいからさ」
と僕が言うと、親指を立ててから小さく手を振ってみんながテントに戻っていった。
「本当におつかれさま。…カッコよすぎでしょ、ちー」
そう話しかけながら、ちーの肩に預かっていたジャージの上をそっと掛けた。
「ジャージがぬるい」
「そりゃそうでしょ。僕がずっと温めといたんだから」
「どこぞの武将の裏話みたいなこと言うなよ」
「ああ…あの人ね」
なんて会話をしてから、もう一度呟く。
「最高だったよ。……お疲れさま、ちー」
その言葉をキッカケに、二人でテントの方へと歩きはじめた。
二年生が入場し、僕たちの背後には三年生の選抜リレーの選手が並び始めている。
チラッと顔を少し後ろへと向ければ、僕を見ていたのか先輩と目が合った。
それでなくても目が大きい先輩なのに、すごく驚いたように目を見開き、一回だけヒラッと手を振ってきた。
僕はそれに応えていいのかわからず、小さく頭を下げるだけにしたんだ。
「声、一番デカく聞こえた。めっちゃ応援してくれただろ? 絶対に一位取ってやるって、燃えた!」
まだすこし汗がこめかみに浮かんでいたちーに、ハンカチを出して拭こうとした僕。
ちーはその手を取って、照れくさそうに笑って「サンキュ」と言った。
僕の手からハンカチを取り、自分で汗を拭う。
「しっかし、マジで疲れた。帰りになんか食ってかねえ?」
「ラーメンとか? チャーシュー目いっぱいのとこで、とか?」
「あー…肉が食いてえ。どっかのファミレス行かん?」
「それもいいねぇ」
この後の話をしながら戻ったテントで、ちーは揉みくちゃにされて。
(まあ、そうなるよね。あれだけすごい走りして一位取ったんだもん)
こんなにいろいろやれちゃうのに、なんで僕なんかのことが好きって言うんだろう。とか思いながら、ぐちゃぐちゃにされていくちーを眺めてた僕。
「眺めてないで、助ける気はないのかよ。鈴」
「…え? 楽しそうって思ってるから、あえて?」
「ひっでぇな!」
「そう? もうすこししたら、出ておいでねー?」
テントの近くで立ったまま、みんなの様子を眺めていた僕とちーの会話に、クラスメイトが笑う。
「白崎って面白いよな? 小鳥遊へのツン具合が」
「たしかにー」
とか勝手なことを言いながら。
そんな話をしている間に、二年生のリレーが始まった。
一年違うだけで、ずいぶんと体格や迫力に差が出るんだなと、改めて感じた。
さっきたまたま応援することになった先輩は、二年二組だ。あの順番でいえば第四走者か。
立ったままで眺めている僕。競技が進んで、あの先輩の順番が来たようだ。
声には出さないけど、心の中でガンバレ! と念じて飛ばす。
あの先輩も足が速いんだな、最下位だったのに二位まで順位を上げてから第五走者のランナーにバトンを渡していた。
最終的に、二年二組は二位止まり。
(残念だったな、あの先輩…頑張って二位まで上げたのに)
そう思いながら、視線を右へとズラす。
入場門のあたりで、三年生の選手たちが一気に立ち上がった。
大柄な選手が揃う中での、すこし小柄な黒木先輩。こうやってみんなが立ち上がると、四組の先輩の姿はまったく見えなくなる。埋もれていると言ってもいいかもしれない。
とはいえ、入場する時は最後に歩いているのでその姿を確かめることは出来るわけで。
「…はあ、はあ。ちっとも助けに来ねえじゃん。鈴」
「ああ、ごめん。リレーに見入ってた」
「知り合いでも出てたの?」
ちーが乱れた髪を手のひらで撫でつけながら、退場してくる二年生を眺めている。
「さっき、ちーを迎えに行った時に何の気なしに応援しちゃった人がいてね」
「何の気なしにって…お前なー」
「だって、何もしないであそこにいるの…気まずくて」
「わからなくはないけどよ、あちこちにいい顔すんな。…天然タラシ系なんだから、お前は」
「なにそれ。心外なんだけど?」
ピピッと短い笛の音がして、三年生の入場を知らせる。
僕とちーは、それに反応したかのように顔をそっちへと向けた。
「迫力すげーよな、三年」
「うん。たった二年の差なのにね」
その中にいる、すこし小柄な黒木先輩。
一年二年と同様に、入場してから途中で枝分かれしてそれぞれの場所へと移動してから座って待っている姿が見えた。
っても、頭の先がぴょこって感じだけど。
僕らの後ろを、さっきまで走っていた二年生がテントに戻るのか近づいてきた。
「お! さっきの!」
「ああ、さっきの。…惜しかったですね? でも先輩すごかったじゃないですか」
「あはは。まあ、これでも陸上部なんで」
「そうなんですね? さすが! って感じでしたね」
「二位だったけどなあー」
「来年、もう一年あるじゃないですか。頑張ってください!」
とか言いながら、両手をこぶしにしてから軽く上下に振ってガンバレと応援してるっぽくすると。
「ありがとな。じゃ、来年も応援よろしくな」
って小さく手を振っていなくなった。
「…今のが応援してた二年生か」
「うん。陸上部だったのかー。そりゃ速いよねー」
なんて言ってから、横を見ると例外がいたことを思い出す。
「陸上部じゃないのに速いのが、ここにいたっけね」
「今、思い出したのかよ」
「ふふっ」
笛の音が高く、長く鳴る。
「……いよいよだな」
ちーの声に、胸に手をあてて深呼吸をする。
「ん」
第一走者が身を屈め、焦れるようにその音を待つ。
息を飲んだその時、パァンッ…とひと際高く、その音が響いた。
ザッと最初の一歩を踏み出す、地面を蹴るような音がかすかにして。
――三年生の選抜リレーが、今…始まった。
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