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第一章 出会い
お目覚め
しおりを挟む「起きないわねー」
料理を作り終えたフェリチタは、川辺で倒れた状態のまま床に寝転ぶ二匹を見つめている。
「お母さん孤児院に顔を出さないといけないからもう行くわね。ご飯は冷蔵庫入れておくから、起きたら温めて食べさせてあげてね」
「わかった。ありがとう」
「治ってるけど、しばらくはここでジッとしてないとダメよってちゃんと伝えてね!?」
しばらく見つめた後、立ち上がって出かける準備をしたかと思えば数分前に聞いた言葉を念を押すように繰り返す。
魔法によって怪我は完治しており、すぐに動くことも可能なのだが……
「だってハイフェンリルよ!?お目にかかれるはずのない神獣よ!?お話したいじゃない!」
欲にまみれたフェリチタは、己の欲求を満たす為に安静を命じる。
「わかったわかった。明日には眼を覚ますと思うから伝えとくっての」
「絶対よ!絶対だからね!」
名残惜しそうに部屋の中を見つめるフェリチタを無理矢理送り出し扉を閉めた。
「……ふぅ」
バリーもフェリチタも帰り静かになった室内に、俺のため息と二匹の規則正しい寝息だけが聞こえる。
夏とはいえ何もかけないで床に寝かせておくのは気が引けた為、フェリチタの指示で二匹には薄手のブランケットをかけていた。
規則正しく上下する胸を見て本当に治ったのだと安堵している自分がいた。
浅い呼吸を繰り返し、瀕死の状態でありながらも気高く美しい様は神獣の名に相応しい佇まいで。
強い意志を宿した瞳に吸い込まれそうになってしまった。
「ごめんな」
今は閉ざされた瞳を思い浮かべながら二匹の額を撫でる。
何らかの理由で怪我をして、何とか逃げ延びてあの川に辿り着いたというのに俺がいて。
しかも警戒していると知りながら無遠慮に近付いた。
静かに口にした“ごめん”には色んな意味が含まれていて。
聞こえているはずもないのにわざわざ声に出したのはただの自己満足。
謝ることで全てを水に流そうと勝手に考えたのだ。
「何故謝る」
そんな俺を二匹の双眼が不思議そうに見つめていた。
「うわっ!」
触れていた手を引っ込め、慌てて数メートル後ろに下がる。
背中合わせで寝転がっていた二匹は手足を動かし伏せの態勢になり、静かにこちらを見ている。
襲いかかってくる様子はない。
それどころか、動いたことでずり落ちたブランケットを口で直している。
何あれ。
神獣相手に失礼かもしれないけど、最高に可愛いんだけど。
「謝るのはお前ではなくこちらだ。善意で動いたお前に噛み付いたのだからな。悪かった」
「そうそう。ごめんなー?」
俺の腕に噛み付いた牙が姿を現したかと思えばそれぞれが謝罪の言葉を口にし、体だけでなく喉元が床につくように頭を下げた。
「頭をあげて下さい!傷は治りましたし何ともないです!大丈夫です!」
顔の前で両手を交差させて言えば、「そうか」と頭を上げてくれた。
神獣に頭下げられるとか心臓に悪い……。
「人族よ。側に」
「あー、そういう方は良くねーぞー。こういう時はこっち来てほしいって柔らかくお願いするんだよ!」
「声が気持ち悪い」
「いたっ!俺の可愛らしい雌声をバカにすんなよな。あとすぐ頭叩くのやめろってのー」
胸を押さえて呼吸を整えていると何やら言い合いが始まっていた。
心に余裕ができた俺は二匹の外見をじっくりと観察する。
二匹ともハイフェンリルな事に変わりはないのだが、そっくりだと思っていた容姿は微妙に違うようで。
違うといっても、尻尾の毛色が異なる程度のもの。
三本ある尻尾のうち一色は白銀で、もう二本の色が違うのだ。
それ以外は特に見当たらない。
「第一、お前は喋り方が緩すぎる」
「堅苦しいよりはいいと思うけど。その方が話しやすいだろうし。神獣の俺達に“側に”なんて言われたら萎縮しちゃうに決まってんじゃん」
「……」
「はい、俺の勝ちー!」
言いくるめられている右の上位怪狼族は、中央が体と同じく白銀で、右が赤、左は青。
反対側の陽気な印象を受ける方は、右が黄色で左が黒。
赤は炎。
青は水。
黄色が光。
黒が闇。
俺のような人族もそうだが、属性魔法を使える者はどこかしらにその属性の色が現れる。
俺は髪色に。
この二匹は尻尾の毛色にといった形だ。
吐き出す息に色が付く者もいるそうだ。
この世界に来て一番驚いたのは、一つの属性魔法しか習得できないという事だ。
この定義に人族の生活魔法や、その他の特殊魔法など適用されない。
その為、二属性以上の適性を持ち通常と異なる体色をした者を上位種と呼び、種族の前に上位をつける。
上位種が出現したという話はごく稀に冒険者の口から聞いた事はあったが、出会うのは初めてだ。
初めてがフェンリルの上位種っていうのが驚きだけどな。
二匹を視界に入れながらもそんなことを考えていると、赤と青のハイフェンリルが「……はぁ」と眉間に皺を寄せて小さくため息をついた。
それに反してもう一匹は口角を上げて笑っている。
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