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第二章 日常のようで非日常
人族のシンさん
しおりを挟む俺の仕事は朝が早い。
必然的に出勤時間も早いわけで、一緒に行きたいと言う二人には心底驚いた。
向かっている最中も手の力が緩み肩がずり落ちそうになるのを何度助けたことか。
そして最終的には二人を両手に抱えて猛ダッシュ。
慌てて職場の入り口を潜ると、
「おはようネロ。あと二分十三秒遅かったら女の子になっとったのぉー?」
腰に手を当て満面の笑みで立っているシンさんがいた。
「お、おはようございます」
引きつった笑みで挨拶するとゆっくりと歩み寄って来る。
思わず手に力が入ってしまい、「ぐえっ」という二人のくぐもった声が聞こえた。
「すみません」と謝りながら腕の力を緩めると潤んだ目でこちらを睨んでいる。
至近距離にいたシンさんにも聞こえていたようで、興味ありげに腕の中を覗き込んできた。
「ん?なんじゃその獣は」
「り、小狼族です。怪我をしているところを助けたら気に入られてしまって、離れようとしなかったので仕方なく連れてきました」
種族の申告が違うだけで嘘は言っていない。
俺の目を探るように見つめたシンさんはため息をつき、タバコを咥え火をつけた。
「小狼族の上位種か。繁殖力の強い小狼族は他の種族に比べて上位種の数が多いと聞いていたが……まさかお前が連れてくるとは思わなんだ」
「人懐っこくていい子達です。邪魔はしないよう言い聞かせてきましたのでしばらく連れて仕事をしてもよろしいでしょうか?」
日本であれば動物を職場に連れてくるなど言語道断。
何をバカなことを言っているんだと怒鳴られて終わる。
しかしここは様々な種族が共存している世界。
「良かろう。その辺うろちょろしとったら上位種だろうが何だろうが丸焼きにじゃからな。決してこやつから離れるなよ?おチビちゃん達」
意外にもすんなりと許可は下りた。
腰に当てていた手で二人の頭と背を撫で、奥へと去っていくシンさん。
後ろ姿を見送って盛大にため息をついた。
「シンさんっていい人だなー」
「俺の祖父のような存在なんですよ。仕事では厳しいですけど基本的には優しいです」
少し離れたところで他の従業員達と談笑している姿を見ながら言う。
いつまで経っても入り口で突っ立っている俺に気づいたのか、鬼のような顔でこちらを見たかと思えば、
「ネロ。さっさと来んか!朝礼の時間じゃぞ!」
「は、はい!今すぐに!」
耳を塞いでいても聞こえる声で怒鳴った。
「本当に優しいんだな?」
「優しいですよ。……仕事以外では」
腕の中にいた二人が肩へと移動したのを確認し、俺は急いでシンさんの元へと向かった。
今までと変わらぬ一日が始まる。
なんてことはなく。
「きゃー!可愛い!小狼族の上位種なの!?初めて見たー」
「人懐っこーい!触っていい?」
「俺、小狼族好きなんだよなー!」
「~~~っ!朝礼を始めると言っておるじゃろうがぁぁぁ!!!!」
始業早々、職員全員にシンさんの雷が落ちました。
なんかすみません。
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