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第二章 日常のようで非日常
不正は許しません
しおりを挟む視線が自分に集まっているのがわかる。
冒険者だけでなく従業員も含め、最近入った者達なんかは目を丸くしているが、常連組は「またか」と酒を片手にこちらを見て笑っていた。
身動きが取れなくなっている目の前の男は、一ヶ月前に入ったばかりの新人。
恐怖を感じながらも状況が理解できておらず、黒目だけを左右に動かして助けてくれる人物を探しているようだった。
「この世に魔法というものがある以上、色々な可能性があるんですよ。姿を消して女性を襲ったり、姿を変えて他人を騙したり。冒険者として生活していくのであれば何かしらの能力があるわけで、高度な魔法や技術も高い。だからこそ、あなたのような者が出てくる」
場にそぐわぬ穏やかな声色。
発せられているのはシルフィーでもタキトゥスやオネストでもなく、俺の口からで。
背後にいる事に気付いていなかったのか、尻尾を丸めていたシルフィーが上半身だけを動かして振り向く。
トパーズのような綺麗な瞳が水気を帯びてキラキラと輝いている。
安心したのか、強張っていた肩が呼吸と共に元の位置にストンと落ちたのがわかった。
そんな彼女に「大丈夫だから」と言葉をかけ、机の上に散らばった小鬼族の耳を手に取る。
「能力が中途半端にある者って、変に小狡いんですよね。俺もそうだけど」
一ヶ月前に自分の所にも同じ報告が来たのを思い出しながら、回転させたり触ったりして観察する。
何の変哲も無い作業用の机に戻すと、長年使ってできた傷のようなものが一瞬だけ光った。
「反転……ですね。月に一度は見かけますよ。あなたみたいな不正をする人。楽して稼ごうって気持ちは分からなくもないですけど、世の中ってそんなに甘くできてないんですよ」
魔法陣の上に置かれたままのギルドカードを、氷によって動きを封じられた手に握らせる。
「従業員を下に見てると……潰すよ?」
笑顔でそう言い、魔法を解除した。
氷から解放された瞬間に力なく床に崩れへたり込む男。
周囲の者達から「俺も昔やったぞそれ。楽してぇよなー」と声をかけられていた。
“なぜわかったんだ”と唖然とした表情で俺を見続けている。
彼の脳に、俺は強者として記憶されているに違いない。
だが実際は違う。
反転を見抜いたのは机の中に刻まれた魔法陣だ。
完了報告として提示された体の一部に魔法がかかっていないかどうかを読み取り、かかっていた場合は先ほどのように傷に見せかけた場所が光るようになっている。
今の説明でわかったと思うけど、俺が凄いんじゃなくて、魔法陣が刻まれたこの机が凄いだけだから。
俺が熱望していた主人公最強チートライフは、現実主義の人魚さんの手によって呆気なく潰されてしまいましたからね。
はぁ。
悲しすぎる。
「ネロ、ありがとう。助かったわ」
「今回は耳垂れてなかったね。凄い凄い」
椅子に座るシルフィーの頭を撫でながら言えば、顔を真っ赤にして「子供扱いしないで!」と腹をグーで殴ってくる。
獣人である彼女の拳は俺の腹筋を直撃し、内蔵が少しばかり悲鳴をあげていた。
いつのまにか静まり返っていた室内に音が戻ってきており、賑やかな声や音が耳に届く。
俺とシルフィーも持ち場に戻り、仕事を再開した。
「ネロちゃんって意外と強いの?」
書類を整理しているとタキトゥスが興味深かそうに聞いてきた。
その質問に思わず吹き出してしまい、「平凡ですよ」と返す。
「さっきネロちゃんが使った魔法は確かに黒魔法(攻撃魔法の総称)だと初級寄りかもしれないけど、無詠唱ってかなり高度なんだよ?」
納得できないのか掘り下げてくるタキトゥス。
実は強いんじゃないかと期待しているところ大変申し訳ないのだが、無詠唱で魔法が発動できるのもラッキー体質だからなんとなく……って感じだと思うんだよね。
人魚さんの言っていた通り、高度な魔法は使えても威力は無いし、俺が強いなんて事は天地がひっくり返ってもありえないよ。
生前にファンタジー小説を読んでいたから想像力が他の人よりもあって、魔法の使い方がほんのちょっと上手いだけ。
ただそれだけだ。
「魔王討伐とかやっみたら?」
「あははっ!そんな事やらないですよ。そういう大役はいかにも主人公って感じの人にやってもらわないと」
「主人公?」と首を傾げる二人に、俺は笑顔で「なんでもないですよ」と返す。
小説のように甘くない異世界転生。
今までとあまり変わらぬ傍観者のような生活。
つまらない気がしていたけれど、魔法が使えるからか意外と面白くて。
最近では、平凡の中の平凡な自分が可愛く思えてきた程だ。
“強く無いなら、強く無いなりに工夫をしてみればいい。お前は弱いわけでは無いのじゃから”
シンさんからの教え。
前向きな考えだなーと、初めて言われた時に思ったよ。
だから俺は、平凡なりに楽しく生きてます。
なんて、よくわからない報告を元いた世界に向かってしてみる。
「ネロおおぉぉぉ!」
シンさんの叫び声は聞こえないフリをして。
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