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第二章 日常のようで非日常
上位怪狼族の背中
しおりを挟む「すみません。寝ちゃってました」
沈む気持ちを隠しきれず、項垂れながら二人に謝る。
「俺達もネロちゃんもぐっすり眠って元気百倍だから問題ないっしょー」
「ない」
そよ風に銀色の毛を靡かせながら、二人は口角を上げて柔らかく微笑む。
「寝ていいですよ」とは言ったが、寝ている間に自分がずっと起きているとは言っていなかった。
それでも罪悪感は拭いきれなくて、無意識に「何か俺にしてほしい事とかありませんか?」と口にしていた。
食い入るようにこちらを見てから瞬きを数回。
二人は顔を見合わせて首を傾げた。
エッチなお願いとかされないかな?と淡い期待を抱いてみたけれど、返ってきた答えは「じゃあ、俺達の背中に乗ってよ。一緒に散歩しよう」という健全なもので。
内心がっかりしながらも、上位怪狼族の背中に乗れる機会なんて滅多にない事に気付き、「わかりました」と快諾する。
一度体を許してしまうと、お願いや償いという単語に厭らしい行為を結びつけてしまうのは人間の性なのか、それとも二人に抱かれたいという俺の願望なのか。
後者のような気がして、何か理由をつけて抱かれたいなんてただの淫乱ではないか、と気恥ずかしくなった。
「ネロちゃんちょっと待っててー。どっちが先か決めるからー」
両手で赤くなっているであろう顔を覆ってしゃがんでいると、少し離れたところからタキトゥスの声が聞こえた。
少し前まですぐ隣にいたというのにどこに行ったのだろうか。
疑問に思って顔を上げると、二人が姿勢を低くし、三本ある尻尾を広げて向かい合っていた。
限界まで広げられた尻尾はまるで孔雀のようで、これから何が行われるのか興味を惹かれた。
その姿勢のまま数秒ほど見つめ合い、地面を蹴って互いに飛びかかる。
口を大きく開け、鋭い牙を覗かせて。
相手の鼻先を噛もうとしては前足で殴られ、それでも果敢に襲いかかる。
飛びかかってきたタキトゥスを、オネストが首から上をしならせて薙ぎ払う。
態勢を崩した隙を狙ってタキトゥスの喉元に噛み付く。
「え?え?ちょ、え?」
尻尾を打つける程度のじゃれ合いだと思っていた俺は、驚きのあまり同じ言葉を繰り返すことしかできなかった。
「ああぁぁぁぁ!また負けたー!」
「これが兄の意地」
「くそぉ……」
しかし、続くと思われた噛み合い?はオネストがタキトゥスの喉元に噛み付いたことで終了した。
意味がわからず二人の元に駆け寄ると、「基本的に何かを決める時は、今見たい取っ組み合いをして、急所をついた方が勝ちってことにしてるんだ。やらなくてもすんなり決まる事もあるけどな」と簡単に説明してくれた。
「首から上と前足だけってルールにしてんだけどさー、いっつも負けんだよなー。ムカつく」
「精進したまえ」
「うぜーっ!」
前足の爪で地面を掘るようにして悔しがるタキトゥスとは裏腹に、オネストは腰を下ろした状態で胸を張り、堂々としていた。
俺の世界でいうジャンケンのようなものなのだろうが、迫力が違いすぎて側にいる俺の方がヒヤヒヤしてしまって落ち着かない。
何か別の方法で決められないか、少し考える必要がありそうだ。
そんな事を考えながら、俺は勝者であるオネストの背に乗った。
馬よりも少し大きい上位怪狼族だが、馬よりも毛が長い為、手綱がなくても掴む場所があって乗りやすかった。
「いいなー!いいなー!」
「うるさい」
移り変わる景色と頰を撫でる風を堪能している中、二人のやり取りはそればかりで、自分の番になるまでずっと騒いでいた。
しかし、いざ乗ってみると緊張しているのか一言も喋らない。
そんなタキトゥスを見てオネストは「こいつ、意外とチキンなんだ」と笑う。
「う、うるせぇ!」と言いながらも、普段のように尻尾で反撃しない所を見ると図星なのだろう。
「ふふふ。また遊びに来ましょうね」
「オネスト!次は俺が先に乗せるからな!」
「ふっ。好きにしろ」
そんな会話をしながら、小狼族サイズになった二人を肩に乗せて帰路につく。
あと一日は何をしようかなと、数時間後にやってくる明日を心待ちにしながら。
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