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第一章 お転婆娘

魅力的な嫁

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 金属と金属が触れ合う音が響き渡る。
 本来であれば眉を顰めるものであるそれ。
 長年聞いていると、耳障りではなく心地よささえ覚え始めるから不思議なものだ。


「ファーレス副隊長」


 武装した小柄の男が疲弊しきった顔で俺の名を呼ぶ。
 彼の名はフォルティス。
 イアン隊副隊長である俺の右腕……つまり、直属の部下である。


「なんつー顔してんだよー。泥だらけじゃん。美しくないねー」
「当たり前でしょう!何時間立ち会いしたと思ってるんですか?バカなんですか?」


 人差し指で耳を塞いでもキャンキャン犬のように耳元で騒いでくる。
 全く。
 昼食中のイアンたちの方が静かってどういうことだ。


「もうみんな整列終わってるんで、早く挨拶を……って、どこみてるんですか?」


 聞いてないことを察したのか、それとも目線が合わないことを不思議に思ったのか。
 何はともあれ、自分に意識がないことに気付いたフォルティス。
 うん。
 まぁ、及第点かな。
 少し気付くのが遅いけど。


「よしよし。全部食べてえらいぞー!」


 男ばかりの訓練場に似つかわしくない小鳥のような声色。
 女性にしては背も高いのに誰よりも愛くるしい、俺のお嫁さん。


「ジャスミン様だ」
「本当だ。お美しい」


 整列したはずの兵士達がジャスミン見たさに列を崩し、周りに群がる。

 ここはイアン達が食事を摂る場所からほんの少しだけ丘にある訓練場。
 あちらからは斜面が邪魔をして全体を視界に写すのは難しいが、こちらからは丸見えである。

 国にいる間は、イアンのブリーダーであるラフマーの手伝いをしており、昼食の配膳や回収を任されていると聞いた。
 生肉が入っているであろうバケツを、嫌な顔せずに持って駆け回り、等間隔に配置している彼女がこの国の王女。

 仕事だけを見れば軍人、または使用人。
 だが、彼女の容姿はただの一般人とは言い難くて。


「いい子いい子!うちのイアンたちはいい子ばかりだもんねー」


 イアンと対照的な金色の髪と瞳。
 雪のように真っ白な肌。
 林檎のように真っ赤な唇。


「抱きたい」


 率直な意見である。


「まだ昼間っすよ」


 呆れたように言うフォルティス。
 童顔な彼は純情そうだと女性陣に言われることが多いが、


「気持ちはわからなくもないですけど」


俺と同レベルの変態野郎である。


 ジャスミンを見つめるその目はやはり獣で。
 欲情しているのがよくわかる。


“人の嫁になんて目を向けやがる”


と言ってやりたいところだが、見るのは自由なのでそこまでは束縛できない。
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