右見ても左見てもクズ男とチャラ男!愛され迷惑!

有沢真尋

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第1章

4 配信スタート

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“はい、それでは皆様お待たせいたしました!”
“本日は秘密のヴェールに包まれた第一騎士団について、その日常風景を皆様にご覧いただく「第一騎士団の日常」第一回配信です! チャンネルはこのままでぜひ最後までお付き合いください! 司会進行は副団長のクライヴと文官のアイザックでお送りします!”

“普段は王宮内での任務が多く、式典のときにしか姿を見せない精鋭約二十名”
“彼らはどのような一日を過ごしているのか?”
“早速今日は、毎日の鍛錬の様子をご紹介いたします!”

“その前に……”
“第一騎士団は、この日新しい団員を迎えるようです”
“さて、久しぶりの新人に、先輩団員たちの反応は……?”

 * * *

 魔道具を用いての「騎士団の日常」配信は、機材等の準備から番組開始の周知期間として二週間を費やして、ついに第一回配信日を迎える運びとなった。

 ルイスはその期間、普段通り家からの通いで会計監査室に出勤し、ルイスのまま仕事に従事していた。「新人騎士レイン」は配信限定キャラなので、それ以外の場面で騎士団に顔を出したり宿舎で共同生活をするといった予定はいまのところない。

 配信は週一回ないし二回程度で、ルイスはほとんどの時間をこれまで同様会計監査室所属として過ごす。ただし、顔が知られるようになれば同一人物と気づかれるのは時間の問題である。

 ひとまず会計監査室では、ルイスに関して厳重な箝口令が敷かれた。それだけではなく、ルイスの仕事を他部署と一切接触を持たないものにする配慮もされた。ルイスは、室長室として割り振られている続きの部屋で資料整理や書類作業に従事する。室長アイザック以外は出入りしない部屋なので、部署を訪れた外部の人間に顔を見られたり、部署内で不用意に他の文官から話題を振られることもない。

「服装はなるべくレインくんを連想させないよう、少し派手めで女性的なほうがいいだろう。仕事というより、王宮に茶会などで招かれて訪れた令嬢風で」

 アイザックからそのようにアドバイスされたこともあり、ルイスは地味一辺倒の文官服をやめて色味のあるドレスを身につけ髪型も工夫するようにした。「もし他人の空似で通せなかった場合、レインはルイスの兄弟だと言い逃れする」という口裏合わせもなされた。 

 こうして慌ただしく準備をしている中、ニコラスが会計監査室を訪れてルイスへの面会を希望するという一件があった。これはアイザックが「今日は来ていないよ」と突っぱねて追い返した。アイザックは二人が家族関係にあることは把握していたが、会計監査室ではルイスへの面会はすべて却下するというアイザック自身が新たに設定した原則に従い、部下たちの前で模範を示したのである。

(めずらしく義兄にいさまからお屋敷のほうへ手紙もあって、近い内に家族で会食の機会を持ちたいという相談があったと聞いていますが……。私はその場には同席しないほうがいいですよね。日にちが決まったら、さりげなく用事を入れて家を留守にし、顔を合わせないようにしましょう)

 ルイスは、少なくとも配信が決定している三ヶ月間は、ニコラスに対しても「新人騎士レイン」であることを隠し通す心づもりでいる。騎士団以外の場でニコラスと接触する気はなかった。家族で会うのはおろか、二人で会うなどもってのほかである。ついつい気が緩んで、甘えてしまうかもしれないからだ。

 新人騎士レインは配信限定キャラとはいえ、その時間はすべて体当たりで騎士団の業務に挑むことになる。ルイスは「何もやらないよりはマシだ」の心意気で、家に帰ってからひそかに自室で筋トレを始めた。とはいえ、いざやってみるとわからないことのほうが多い。ぜひとも騎士団にいるときに、他の団員からひとりでもできる体の鍛え方を聞こうと心に決めた。

 こうして、会計監査室でルイスの姿は隠され、ルイス本人はニコラスを始めとした他者との接触を避ける形で生活をし、配信の日を待った。

 * * *

 軍事目的で開発されたもともとの配信用魔道具には様々な機能が搭載されていたが、家庭用普及版は極力単純化された作りをしている。そのため、現在のところ配信を記録に残す機能はなく、すべてがリアルタイムであり、なおかつ配信者と視聴者で配信を通してコンタクトを取る仕組みはない。
 しかし番組制作の収益化に関しては一切の妥協なく、視聴者から番組視聴料と「おひねり」課金を受け付ける仕様に関しては充実していた。

 今回、王宮の管轄である第一騎士団が「第一騎士団の日常」を配信するにあたり「収益は機材実費と番組中で使用する物品購入の他、騎士団の新しい装備品や宿舎の什器などにあてる。その収支報告に関しては会計監査室が責任をもってすべて明らかにする」という触れ込みで制作の許可を得ている。

 貴重な勤務時間を使っての試みである以上、利益を度外視することはない。
 その一方で「騎士団を知ってもらう」公益目的でもあるため、番組視聴料は過度に高く設定しないと決めた。ひとまず、視聴料に関しては経費の回収のみを目標とし、現在配信規定で設定されている最低金額とした。機器さえあれば気軽に見ることができる値段だ。
 主な利益は、富裕層からの課金を見込んでいるが、これは焦らず長い目で見てという話になっている。

 番組配信案が出てから、第一回目配信までの準備期間はあっという間であった。広報にかけた時間も短い。最初は騎士団も慣れていないことだし、徐々に評判が広まれば……というのが制作側の考えであった。
 だが。

「事前登録数がいきなりトップクラス……?」

 という、騎士団員たちには想定外の注目度の中で当日を迎えることとなった。
 第一回の配信は、国内ではほとんどの職種が休日となる日の午後、第一騎士団の修練場から一時間の内容で予定を組んでいた。
 開始前の待機数がみるみる間に伸びているのをアイザックとクライヴは余裕の目で見ていたが、ただでさえ緊張している団員たちには伝えず、定刻に流暢なアイザックのナレーションとともに配信を開始した。

“第一騎士団は、この日新しい団員を迎えるようです”
“さて、久しぶりの新人に、先輩団員たちの反応は……?”

「はじめまして! このたび第一騎士団への配属が決まりましたレインと申します。早く騎士団員としての仕事を覚えて、皆様と一緒にこの国のために力を発揮したいです! ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします!」

 レインに扮したルイスが、騎士団の面々の前で二度目の「はじめまして」をする。
 迎えたのは、勤務中と非番と配信に映せない団員を除く十名。
 ニコラスは、自分が確実にその場にいられるようあらかじめ手を打っていた。他にランドルフやヴィンセントもいる。

“新人騎士のレインくん、まずは元気に挨拶だ! 先輩たちの表情は?” 

 アイザックは、感じの良い声でなめらかな実況を続けた。配信用の撮影機を肩に乗せたクライヴが、ナレーションに合わせて団員たちの顔を順番に映していく。

 全員、緊張のせいで打ち解けた気配は微塵もなかった。普段の任務のときと同様か、それ以上の緊迫した空気の中で無表情にレインを見つめていた。

(そうなるよな。現在のところ、配信でがっちり収益を得ているのは楽団の演奏や劇団の劇配信だ。この日に向けて勉強がてら全員で見たけど、逆に自信をなくした者も多い。「普段の俺らの姿に、どんな需要が……?」って戸惑いが大きくて。俺もそう思う)

 いくら資金難とはいえ、無謀すぎる。もう少しまともな方法はなかったのか? と思ったニコラスであるが、メインキャラクターとして奮闘する予定の「新人騎士レイン」ことルイスを見捨てるわけにはいかない。
 そのつもりでこの場に臨み、何かしらとりなすようなことを言おうとしていた。しかし意外にも、口火を切ったのはヴィンセントであった。

「君、挨拶が元気なのは結構だけど、第一騎士団は実力重視の精鋭部隊だよ。その華奢な体で剣をどれほど扱えるのかな。早速だけど、模擬戦で実力を試させてもらう。副団長、構いませんね?」

 待望の後輩を迎えるにあたり、ヴィンセントは厳しい先輩として振る舞うと決めたらしい。ただでさえ空恐ろしいほどの完璧な美青年が、元気だけが取り柄の新人に冷たくあたる光景にはとにかく迫力があった。クライヴがにやにやとしながら「いきなり絵になるな。視聴者の目は釘付けだ」と呟いていた。
 
 側で見ていたニコラスといえば、これまでの「第一騎士団みんなの弟キャラ」を完全に封印したヴィンセントを、唖然として見ていた。

(おいやめろ。調子に乗るなヴィンセント。レインはルイスで俺の義妹だぞ? 俺の目の前で何をするつもりだ。ことと次第によっては、お前を後で宿舎の裏に呼び出してシメるぞ)
 
 少し痛い目を見せなければわからないのか? と物騒な考えがよぎる。
 他の団員たちも、静かな驚きをもって成り行きを見守っている様子であった。素直な性格のランドルフなどは「お前、普段そんなんじゃないだろ」と顔にはっきりと書いていた。
 機材を抱えたクライヴは、軽い調子で「いいぞ、やれ」と模擬戦の許可を出す。

 いきなりの事態にルイスは顔を強張らせていたものの、クライヴの回答を耳にすると素早く「よろしくお願いします!」と声を上げる。反射神経はすばらしい、とニコラスは感心してしまった。だが、それとこれとはべつだという気持ちのほうが大きい。

(だめだ。ヴィンセントは最年少で団員歴も一番浅いとはいえ、第一騎士団だけあって文句なく腕が立つ。あの見た目で膂力も凄まじい。ルイスみたいなウェイトのない体は、一撃でふっとばされて全身粉々にされるぞ)

 勝負になるはずがないと見切りをつけ、ニコラスは「その勝負待った」と声を上げる。

「どうしましたか、ニコラス様」

 厳しい先輩モードの顔で凄んだまま、ヴィンセントが挑みかかるように応じてきた。美形が過ぎて禍々しい。
 しかし見慣れているニコラスは特に動じることもなく、飄々とした口ぶりで答えた。

「模擬試合とは何か、どういったルールで行われるものなのか、まずは模範を示す必要があるだろう。今日のところは『先輩が手本を示す』べきだと私は思う。ヴィンセントが腕をふるいたいというのなら、その剣はレインくんに代わって私が受けよう。胸を貸してやるから、遠慮せずかかってこい」

 目を細め、挑発をする。

(後で呼び出してシメるの面倒だな。この場で、二度と俺の義妹に変な気を起こさないよう、ぶっ叩いておくか)

 ニコラスの思惑はともかくとして、ヴィンセントには「先輩が手本を示す」の言葉が効いたらしい。一瞬ほんのりと嬉しそうな顔をしたものの、すぐに表情を引き締めると「承知しました」と短く答える。

 ニコラスはちらりとクライヴに視線を流して「始めます」と告げると、ランドルフの肩に軽く手を触れて囁いた。

「審判はお前だ」
「了解」

 そして、口を挟めぬまま見守っていたルイスに向かい「見ていなさい」とだけ声をかけた。
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