余命三ヶ月の令嬢と男娼と、悪魔

有沢真尋

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【本編】

恋にも愛にも時間が足りない

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 メイナード伯爵邸にて、かねてより病気療養中だったクララお嬢様が、ついに余命宣告を受けた。
 伯爵夫妻は悲嘆に暮れて、残り少ない時間を有意義に過ごして欲しい、願いは可能な限り叶えようとお嬢様に約束をした。
 クララお嬢様は言った。

「美しく清らかに何も無いまま死ぬなんて嫌なの。恋にも愛にも時間が足りないとしても、めくるめく官能だけなら可能なのではないですか。私のために男娼を用意してください。十六年間の人生で、最高の一夜を過ごしてから死のうと思います」
 
 他には何も望みません、と。
 それは淑女として……、貴族の令嬢として外聞が……、翻意させようと夫妻は頭を悩ませたが、思いつくのはごく常識的な反対意見ばかり。口の達者なお嬢様に言い返されるのは目に見えている。
 迷った末に、願いを聞き入れることにした。それはもう、苦渋の決断である。

 しかしいざ相談されたレスターとて「はい、では手配します」と二つ返事するわけにはいかなかった。
 悩みに悩んだ末に頭に浮かんだのが、末の弟の人好きのする笑顔。
 アレンならば。

「心当たりが無いわけではありません。まずは本人の意向を確認し、了承を得られたら、屋敷に連れ帰ります」

 かくしてレスターは生家に赴き、赤毛の弟を捕まえて藪から棒に言ったのだという。
 男娼になれ、と。
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