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第二章 彼女と模擬試合
Snow White(前)
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「なんでクロノス王子なんだよ……。二人でどこに行くんだよ」
カインに取り押さえられて、ひとまずはその場にとどまったものの、クライスはいいだけ落ち込んでいた。
その暗い横顔を注意深く見つめながら、カインが声をかけた。
「ところで、ルーナ殿からキスを頂きそびれてしまったので、ここは代わりにお前にしてもらおうかな」
「ルーナ殿からのキスって、ん、え、なに!? 僕!?」
聞き間違いかと、クライスはカインの顔を見上げる。
「そうそう。だってお前とキスすると間接チュウなんだろう? 実質今のお前、ルーナ殿だよな」
「なんだよその理屈は……、無いない。絶対に無い。冗談でもタチ悪いよ」
完全に、からかわれただけだと思っているクライスだけに聞こえる音量で、カインがぼそりと言った。
「そうか。じゃあ今度ルーナ殿にお会いしたときに頂こうか」
「へ!? なにそれ、後からもらうってこと?」
「おかしいか? たぶん、ルーナ殿のあの勢いなら『約束だったな』とか言って、してくれそう」
「あー……たしかに。僕は嫌だけど、たぶん……」
少女の外見に、妙な気風の良さのあるルーナは、皆の前でした約束を簡単に反故にはしなさそうだった。容易に想像できるだけに、クライスは考えこんでしまう。
その悩みに沈んだ顔を冷静そのものの目で見ながら、カインがダメ押しのように言った。
「それに……、このままアレクス王子の注意が彼女に向いたままにはしておけない。意中の相手であるお前と、人前であそこまで見せつけるようなことをした彼女には、絶対に制裁がいく。逃げきれればいいが」
「それは、僕も少し考えたけど」
物騒この上ない予想に、顔色を悪くしてクライスがカインを見上げる。その気弱さが浮かんだ瞳をのぞきこんで、カインが他意はないとばかりの実直さで言った。
「オレが引き受ける。今お前がオレにキスをしたら、アレクス王子の関心は分散されるだろうさ」
「だめだよ、そんなの。カイン、出世できなくなる。巻き込みたくない」
焦った様子のクライスの手を取って、カインは笑みを浮かべた。
「今さらだな。オレは優秀だし、アレクス王子の一存程度に吹かれても飛ばないよ。……というわけで、お前がオレにキスをするのは、彼女をいろんな意味で助けることになると思うのだが」
クライスは低く呻きながら、考え込んだ。しかし、覚悟を決めたようにカインを見上げた。
「口は勘弁してくれる?」
「うん?」
軽く小首を傾げて見下ろしたカインの首に、腕を伸ばして抱き寄せるようにしながら、背伸びをして──
身長差で、ようやく届いた顎の先に柔らかな唇で触れた。ほんの一瞬。
目を見開いてカインが見下ろすと、クライスが至近距離でふわりと笑った。
「髭、剃ってないの?」
「いや……朝に剃っても、午後になると伸びてくるんだよ……」
言われて、顎に手をあてると、じゃりっとした感触がある。クライスは笑みを浮かべたまま腕をといて身体を離した。
「おお、勝者へのキスはクライス姫が!?」
誰かがふざけて冷かし、「姫じゃねーよ!」とクライスが声を張り上げる。
観覧席ではアレクス王子が思わずのように立ち上がっていた。
顎に手をあてて、じゃりじゃりと伸びてきた髭を撫ぜながら、カインはごく小さな声でクライスの名を呼んだ。
「なに? したよ?」
「そうじゃなくて」
きょとんとした顔をぼうっと見つめてから、我に返ったように少しだけ首を振り、言った。
「お前、背の高い男に甘え慣れてるような動きをするな。彼女はいつもそんな風にお前にキスをするのか?」
カインに取り押さえられて、ひとまずはその場にとどまったものの、クライスはいいだけ落ち込んでいた。
その暗い横顔を注意深く見つめながら、カインが声をかけた。
「ところで、ルーナ殿からキスを頂きそびれてしまったので、ここは代わりにお前にしてもらおうかな」
「ルーナ殿からのキスって、ん、え、なに!? 僕!?」
聞き間違いかと、クライスはカインの顔を見上げる。
「そうそう。だってお前とキスすると間接チュウなんだろう? 実質今のお前、ルーナ殿だよな」
「なんだよその理屈は……、無いない。絶対に無い。冗談でもタチ悪いよ」
完全に、からかわれただけだと思っているクライスだけに聞こえる音量で、カインがぼそりと言った。
「そうか。じゃあ今度ルーナ殿にお会いしたときに頂こうか」
「へ!? なにそれ、後からもらうってこと?」
「おかしいか? たぶん、ルーナ殿のあの勢いなら『約束だったな』とか言って、してくれそう」
「あー……たしかに。僕は嫌だけど、たぶん……」
少女の外見に、妙な気風の良さのあるルーナは、皆の前でした約束を簡単に反故にはしなさそうだった。容易に想像できるだけに、クライスは考えこんでしまう。
その悩みに沈んだ顔を冷静そのものの目で見ながら、カインがダメ押しのように言った。
「それに……、このままアレクス王子の注意が彼女に向いたままにはしておけない。意中の相手であるお前と、人前であそこまで見せつけるようなことをした彼女には、絶対に制裁がいく。逃げきれればいいが」
「それは、僕も少し考えたけど」
物騒この上ない予想に、顔色を悪くしてクライスがカインを見上げる。その気弱さが浮かんだ瞳をのぞきこんで、カインが他意はないとばかりの実直さで言った。
「オレが引き受ける。今お前がオレにキスをしたら、アレクス王子の関心は分散されるだろうさ」
「だめだよ、そんなの。カイン、出世できなくなる。巻き込みたくない」
焦った様子のクライスの手を取って、カインは笑みを浮かべた。
「今さらだな。オレは優秀だし、アレクス王子の一存程度に吹かれても飛ばないよ。……というわけで、お前がオレにキスをするのは、彼女をいろんな意味で助けることになると思うのだが」
クライスは低く呻きながら、考え込んだ。しかし、覚悟を決めたようにカインを見上げた。
「口は勘弁してくれる?」
「うん?」
軽く小首を傾げて見下ろしたカインの首に、腕を伸ばして抱き寄せるようにしながら、背伸びをして──
身長差で、ようやく届いた顎の先に柔らかな唇で触れた。ほんの一瞬。
目を見開いてカインが見下ろすと、クライスが至近距離でふわりと笑った。
「髭、剃ってないの?」
「いや……朝に剃っても、午後になると伸びてくるんだよ……」
言われて、顎に手をあてると、じゃりっとした感触がある。クライスは笑みを浮かべたまま腕をといて身体を離した。
「おお、勝者へのキスはクライス姫が!?」
誰かがふざけて冷かし、「姫じゃねーよ!」とクライスが声を張り上げる。
観覧席ではアレクス王子が思わずのように立ち上がっていた。
顎に手をあてて、じゃりじゃりと伸びてきた髭を撫ぜながら、カインはごく小さな声でクライスの名を呼んだ。
「なに? したよ?」
「そうじゃなくて」
きょとんとした顔をぼうっと見つめてから、我に返ったように少しだけ首を振り、言った。
「お前、背の高い男に甘え慣れてるような動きをするな。彼女はいつもそんな風にお前にキスをするのか?」
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