尽くしてきた婚約者に裏切られたので、婚約を解消しました〜彼が愛に気づいたのは、すべてを失ったあとでした〜

ともどーも

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第二章

二十五話 王都の夜、そして王宮の反乱

 帰国すると宣言してから、二日。
 鉱山へ通う必要がなくなり、私は完全に暇になった。
 ホテルで本を読んでいても、窓を眺めていても落ち着かない。
 そんな私を見かねて、キャメロット様から声がかかった。
「暇なら出かけましょう」
「どこへですか?」
 
「王都観光」
 
 あまりにも軽い調子で言うので、思わず笑ってしまった。
 確かに、部屋に籠っているのも気が滅入る。
 私はその誘いに乗ることにした。

  
◇◇◇

  
 キャメロットに連れられ、王都の石畳を歩いた。
 流行りの舞台を見て、人気のカフェに入り、気づけば自然と笑っていた。
「その顔、やっと見られたわ」
 キャメロットが満足そうに言う。
「そんなにひどかった?」
「ひどかった」
 即答だった。
 思わず吹き出す。
 
 いつの間にか敬語も消えて、互いに名前で呼び合っていた。
 それが不思議と心地よかった。
 
 食後、店員が皿を運んできた。
「こちら、他のお客様からです」
 
 差し出されたのは──チーズタルト。
 
 視線を巡らせると、少し離れた席に男がいた。
 ディートリッヒ。
 こちらに気づいて、ゆっくりと微笑む。
 
 ぞっとした。

 そういえば、あの人もこの国に来ていたのだった。
 鉱山のことで頭がいっぱいで、すっかり忘れていた。 
 
「申し訳ありません」
 私は店員に言った。
「チーズタルトは苦手なんです。よろしければ皆さんで召し上がってください」
 店員が戸惑いながら皿を下げる。
 私はメニューを指差した。
「代わりに、モンブランをお願いします」
 
「ねえ、あの人って例の……?」
 キャメロットが小声で言う。
「すっかり忘れてたわ」
「ぷっ、なにそれ」
「他のことでいっぱいだったから」
「まあ、それはそうね」
 
 私は少し声を潜めた。
「ホテル、変えられる?」
「ええ、もちろん」
「鉱山に通ってるときは気にならなかったけど……隣の部屋にいるのを思い出したら、気持ち悪くて」
「任せて。すぐ手配するわ」
 
 やがて運ばれてきたモンブランを一口食べる。
 甘くて、ほっとした。
 
「あなた、結構図太いわね」
 キャメロットが笑う。
「今さら震えていたら、負けた気がするじゃない」
「それもそうね」
 
 ディートリッヒの視線を感じた。
 それでも私は気にせず、モンブランを食べ続けた。

  
◇◇◇

  
 その夜。
 私たちは新しいホテルへ移った。
 部屋で寝ていると。
 
 ──ドンドンッ!!
 
 ドアが激しく叩かれた。
「イリス!」
 キャメロットの声だった。
 ただ事ではない。
 急いで扉を開ける。
 
 キャメロットは息を切らしていた。
「どうしたの?」
 
 彼女は廊下を確認してから、低く言った。 
「王宮で反乱が起きた」
 
 頭が真っ白になる。
「反乱……?」
「クリス殿下の側近たちよ」
 キャメロットの声が鋭くなる。
 
「フィリオ殿下と国王を殺すつもりで、王宮の西棟を占拠したらしいの。そこは王族の居住区に近いわ」 
 背筋が凍った。 
「今、衛兵と戦闘になってる」
 
 さっきまでの穏やかな一日が、音を立てて崩れていく。 
「急いで」
 キャメロットが言う。
「ここは危険よ。王太子派が誰を狙うかわからない」
 背筋が冷えた。
「イリスが巻き込まれる可能性がある」
 一瞬で理解した。
「だから公爵家に行く。この国で一番安全な場所よ」
 私は言葉も出せず、ただ頷いた。
「安心して。うちの家に手を出す度胸のある馬鹿は、この国にいないわ」
 キャメロットの力強い言葉に、少し安心する。
 
 王都の夜が、静かに狂い始めていた。
 私は言い知れない胸騒ぎを覚えた。
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