どこまでも玩具

片桐瑠衣

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立たされた境地

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 カチカチ。
 秒針が走っている。
 無言のまま、何秒も。
 類沢の家に入って、リビングのソファーに腰掛けて。
 それから止まったまま。
 類沢は、呆然としているようにも、何か考えているようにも見えた。
 あの男は誰ですか。
 なにかあったんですか。
 訊きたい。
 類沢先生。
 あれは、誰ですか。
 なんで名前で呼ぶんですか。
「先生」
 唇が乾いている。
 長い沈黙で、空気も。
 類沢はフッと我に返ったように、煙草を取り出した。
 ライターが音を立て、きな臭さが漂う。
 父さんだ。
 突然父の姿が重なった。
 灰皿に灰を落とす仕草とか。
 母さんがそれをいつも片付けていたこととか。
「夕飯作る?」
 俺じゃなくて、宙を見て云った。
 昼から食べてないから、お腹は空いていた。
 けど、首を振る。
 食欲がない。
 体は不満をぶつけてくるが、押しとどめる。
「西雅樹……」
「はい?」
 類沢は低い声で続けた。
「さっきの青年の名前だよ」
「ああ。そうでしたか」
 次になんて言おう。
 親戚ですか。
 知り合いですか。
 誰なんですか。
 詮索ばかり。
 この幼稚な脳にイラつく。
 思い浮かばないんだ。
 それ以外。
 はっとする。
 類沢は孤児院で育った。
 親戚などいるはずがない。
 くだらないことを訊かなくて良かった。
 なら……誰だ。
 沈黙がうねる。
 ゾワゾワと不快な気分。
 スッキリさせたいのに。
 その方法がわからない。
「大したことじゃないよ」
 類沢は俺を見つめた。
「大したことじゃない」
 言い聞かせるように、反復して。
 なら、なんでそんな複雑な顔をしているんですか。
 納得いかない心を鎮めて、そうですか、と相づちを打った。
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