17 / 19
第17話:右手と左手、決して交わらない救い
しおりを挟む
第17話:右手と左手、決して交わらない救い
深夜の廃校。校舎の割れた窓から、湿り気を帯びたすすり泣きが響く。 久我とユウキは、月明かりの差し込む理科室でその「気配」を探っていた。
「……久我さん、朗報です」
ユウキがスマホの画面をタップしながら囁く。
「SNSの裏掲示板によると、この廃校に出る女子高生の霊、かなりの美少女らしいですよ。セーラー服が似合う清楚系だとか」
久我は迷いなく右手の関節をポキポキと鳴らした。 「任せろ。その『清楚で柔らかな真実』を、俺のこの右手が直接確かめてやる。除霊師の義務だからな」
そこへ、廊下の奥から強烈な妖気が押し寄せてきた。 重い足音と共に現れたのは、ボロボロの白衣を羽織り、左腕に不吉な黒い布を幾重にも巻き付けた鋭い眼光の男――。
「……そこまでだ、素人が。その霊は俺が引導を渡す」 男は低く響く声で告げ、左腕の布を解き放った。そこには禍々しく脈打つ、赤黒い異形の腕。
「俺は鬼手先生(おにのてせんせい)。この左腕に宿る“鬼の手”で、あらゆる穢れを無に還す!」
久我は呆然と立ち尽くし、思わずツッコんだ。
「なんで左手なんだよ! こっちは右手なんだよ! 属性が微妙に被ってて、画面の構図のバランスが悪くなるだろ!」
鬼手先生は冷笑した。
「貴様のような不潔な右手とは格が違う。俺の鬼手は強大すぎるあまり、触れる必要さえない。半径一メートル以内に近づけば、その霊力で霊体は塵も残さず消滅する……浄化の極致だ!」
久我は哀れみを含んだ目で男を見つめた。
「……それ、一回も触ったことないってことだよな? 相手の質感も知らないまま消しちゃうとか……それ、ただの『除霊童貞』じゃん」
「な、何を……っ!!」鬼手先生の顔が真っ赤に染まる。
「言うなァァァ!! 効率の話をしているんだ! 触感なんて不確定な要素、除霊には不要だ!」
その時、理科室の隅に透き通るような女子高生の霊が現れた。 彼女は涙に濡れた瞳で自分の肩を抱きしめ、震えている。
「出たな! 無に還れ、怨霊ッ!」
鬼手先生が左手を突き出し、圧倒的な破壊エネルギーを溜める。
「ストップ!! 殺すんじゃねぇ!」
久我はその射線に割り込み、弾丸のように彼女の懐へ飛び込んだ。 そして、戸惑う彼女の胸元へ、吸い込まれるように右手を添えた。
「むにゅっ」
「…………っ!!」
指先から、切なくなるほどの弾力と、行き場のない熱が流れ込んでくる。
久我「……視えるぞ。卒業式の日、第二ボタンを渡したかったあいつが、事故で来られなくなったんだな。誰にも言えないまま腐らせた恋心を……ずっと、ここで温めてたんだな」
幽霊「……え。気づいてくれたのは……あなたが初めて……」
彼女の姿が、淡い純白の光に包まれていく。久我の右手から伝わる「理解」が、彼女の執着を解いていく。
幽霊「……ありがとう、久我さん。あなたの右手……すごく、温かかった……」
彼女は最後に少女のような美しい笑顔を見せ、光の粒子となって消えていった。……完璧な成仏だ。
屋上で向かい合う二人。夜風が久我の髪を揺らす。
鬼手先生「羨ましいッ!! 羨ましすぎるぞ貴様ぁッ!! 俺の鬼手は強すぎて、物理演算が狂うレベルで触れた瞬間に原子分解しちまうんだッ!!」
久我「……あなたみたいな童貞には分からないでしょうけど。とても、優しくて柔らかい成仏でしたよ」
鬼手先生「ぐぬぬぬぬぬ……!! なぜだ! なぜ俺の左手は、こんなに攻撃特化なんだ!!」
久我(淡々とトドメを刺す) 「先生……ぶっちゃけ、女の子の胸に触れた回数、人生で一度でもあります?」
鬼手先生「……っ!! それ以上言うなァァーーーッ!! 俺は世界を守るために、青春を捧げたんだァァ!!」
絶叫する鬼手先生を背に、久我は遠くを見つめた。
久我「……でもな。触れた瞬間に、別れが確定する恋なんてさ。……楽しめるわけ、ねぇだろ」
その言葉に、鬼手先生も、背後で笑っていたユウキも、一瞬だけ沈黙した。 どれほど「柔らかい」と称賛しようとも、久我がその感触を味わえるのは、永遠の別れを告げる除霊の瞬間だけなのだ。
ユウキ「……久我さん。また霊にフラれて、感傷に浸ってる暇はありませんよ」
「あ?」
「ほら、パトカーのサイレン。近隣住民が廃校からの叫び声を聞いて通報したみたいです。現世の女の子には、手の温かさじゃなくて110番で対応されるのが僕らの日常ですから」
久我「……。救われねぇのは、俺の恋愛運の方だったか」
パトカーの赤色灯が近づく中、二人は夜の闇へと全力で駆け出した。 ポケットの中で、久我の右手だけが、まだほんのり、別れたばかりの恋の温もりを保っていた。
深夜の廃校。校舎の割れた窓から、湿り気を帯びたすすり泣きが響く。 久我とユウキは、月明かりの差し込む理科室でその「気配」を探っていた。
「……久我さん、朗報です」
ユウキがスマホの画面をタップしながら囁く。
「SNSの裏掲示板によると、この廃校に出る女子高生の霊、かなりの美少女らしいですよ。セーラー服が似合う清楚系だとか」
久我は迷いなく右手の関節をポキポキと鳴らした。 「任せろ。その『清楚で柔らかな真実』を、俺のこの右手が直接確かめてやる。除霊師の義務だからな」
そこへ、廊下の奥から強烈な妖気が押し寄せてきた。 重い足音と共に現れたのは、ボロボロの白衣を羽織り、左腕に不吉な黒い布を幾重にも巻き付けた鋭い眼光の男――。
「……そこまでだ、素人が。その霊は俺が引導を渡す」 男は低く響く声で告げ、左腕の布を解き放った。そこには禍々しく脈打つ、赤黒い異形の腕。
「俺は鬼手先生(おにのてせんせい)。この左腕に宿る“鬼の手”で、あらゆる穢れを無に還す!」
久我は呆然と立ち尽くし、思わずツッコんだ。
「なんで左手なんだよ! こっちは右手なんだよ! 属性が微妙に被ってて、画面の構図のバランスが悪くなるだろ!」
鬼手先生は冷笑した。
「貴様のような不潔な右手とは格が違う。俺の鬼手は強大すぎるあまり、触れる必要さえない。半径一メートル以内に近づけば、その霊力で霊体は塵も残さず消滅する……浄化の極致だ!」
久我は哀れみを含んだ目で男を見つめた。
「……それ、一回も触ったことないってことだよな? 相手の質感も知らないまま消しちゃうとか……それ、ただの『除霊童貞』じゃん」
「な、何を……っ!!」鬼手先生の顔が真っ赤に染まる。
「言うなァァァ!! 効率の話をしているんだ! 触感なんて不確定な要素、除霊には不要だ!」
その時、理科室の隅に透き通るような女子高生の霊が現れた。 彼女は涙に濡れた瞳で自分の肩を抱きしめ、震えている。
「出たな! 無に還れ、怨霊ッ!」
鬼手先生が左手を突き出し、圧倒的な破壊エネルギーを溜める。
「ストップ!! 殺すんじゃねぇ!」
久我はその射線に割り込み、弾丸のように彼女の懐へ飛び込んだ。 そして、戸惑う彼女の胸元へ、吸い込まれるように右手を添えた。
「むにゅっ」
「…………っ!!」
指先から、切なくなるほどの弾力と、行き場のない熱が流れ込んでくる。
久我「……視えるぞ。卒業式の日、第二ボタンを渡したかったあいつが、事故で来られなくなったんだな。誰にも言えないまま腐らせた恋心を……ずっと、ここで温めてたんだな」
幽霊「……え。気づいてくれたのは……あなたが初めて……」
彼女の姿が、淡い純白の光に包まれていく。久我の右手から伝わる「理解」が、彼女の執着を解いていく。
幽霊「……ありがとう、久我さん。あなたの右手……すごく、温かかった……」
彼女は最後に少女のような美しい笑顔を見せ、光の粒子となって消えていった。……完璧な成仏だ。
屋上で向かい合う二人。夜風が久我の髪を揺らす。
鬼手先生「羨ましいッ!! 羨ましすぎるぞ貴様ぁッ!! 俺の鬼手は強すぎて、物理演算が狂うレベルで触れた瞬間に原子分解しちまうんだッ!!」
久我「……あなたみたいな童貞には分からないでしょうけど。とても、優しくて柔らかい成仏でしたよ」
鬼手先生「ぐぬぬぬぬぬ……!! なぜだ! なぜ俺の左手は、こんなに攻撃特化なんだ!!」
久我(淡々とトドメを刺す) 「先生……ぶっちゃけ、女の子の胸に触れた回数、人生で一度でもあります?」
鬼手先生「……っ!! それ以上言うなァァーーーッ!! 俺は世界を守るために、青春を捧げたんだァァ!!」
絶叫する鬼手先生を背に、久我は遠くを見つめた。
久我「……でもな。触れた瞬間に、別れが確定する恋なんてさ。……楽しめるわけ、ねぇだろ」
その言葉に、鬼手先生も、背後で笑っていたユウキも、一瞬だけ沈黙した。 どれほど「柔らかい」と称賛しようとも、久我がその感触を味わえるのは、永遠の別れを告げる除霊の瞬間だけなのだ。
ユウキ「……久我さん。また霊にフラれて、感傷に浸ってる暇はありませんよ」
「あ?」
「ほら、パトカーのサイレン。近隣住民が廃校からの叫び声を聞いて通報したみたいです。現世の女の子には、手の温かさじゃなくて110番で対応されるのが僕らの日常ですから」
久我「……。救われねぇのは、俺の恋愛運の方だったか」
パトカーの赤色灯が近づく中、二人は夜の闇へと全力で駆け出した。 ポケットの中で、久我の右手だけが、まだほんのり、別れたばかりの恋の温もりを保っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる