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12月

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 遅めの夕食はドライブスルーで買ったファーストフード、変わらず知佳ちかは助手席に居て、運転する千早ちはやの口へと1本ずつポテトを運ぶ。

「どこに行っても、安定の美味しさ…助かりますね」

「ほんまにな…美味い。ん……チカちゃんも、自分の食いや、冷めたら美味しないから」

 帰りも高速には乗らずに下道で、まぁまぁ空いてはきたがイブの夜の人出は舐めてはいけなかった。

「みんな…出掛けてんな、クリスマスやから」

「年末に向けて、店も忙しくなります…物流量が増えて倉庫もパンパンになっちゃうし。あ、2日の初売りは売り場の手伝いもします」

 年末年始に生産を休むメーカーが多いため、早いうちに在庫を蓄えておこうと本部が多めに発注をしておくらしい。

「え、売り場立つん?」

「いえ、福袋の用意とか…お渡し所に運んだりとか」

「なんや…営業モードのチカちゃん見れるんか思たのに」

 千早は目に見えてガッカリし、また左手で知佳の頬を触りニヤニヤと油に濡れた唇を持ち上げて笑う。

「まぁ…そんなに変わんないです。服装くらいかな」

「それを見たい、言うてんのよ…機会があれば見してや」

「はいはい」


 彼の手が離れたので知佳は黙々と自分のポテトを片付け、チーズが挟まったハンバーガーに口を付けるのだった。





 安全運転で1時間は走り、千早は無事に希望通りの時間に知佳宅へと車を着けた。

 駐車場へ置いていた千早のバイクと入れ替えて駐車し直し、まぁお茶でも…と部屋へ上がり込む。


「お邪魔するよー…ん、やっぱこの庶民的な感じ、落ち着くわ」

「綺麗にはしてるつもりなんですけど…」

 相変わらず倒れたままの本、ゴミ収集の日を明日に控えてゴミ箱は紙くずなどがてんこ盛りになっていた。

「ええのよ、まぁまぁ清潔、まぁまぁ散らかってる……うん、落ち着く」

「はぁ…何もありませんけど…お茶淹れますね」

「おおきに」

明石焼きの時のように好みの位置へ腰を据え、千早は台所でパタパタ動き出す知佳を頬杖で眺める。

 そして、

「チカちゃん、よそ行きのヤツやのうてええよ。普通のコップで、」

と、吊り戸棚から客用のカップセットを用意しようとしていた彼女を止めた。

「そう…ですか?じゃあ普通のマグ…青と赤、どっちが好きですか?」

「んー、青かな…色違いで揃えてんの?」

「いえ、何かの景品か何かで貰ったやつ…ほら、赤と青」

知佳は同じ戸棚から箱に入ったマグカップセットを取り出して開封し、所望された青の方を掲げて見せてやる。

「それ、ペアちゃうの?」

「そうかも。ペアマグって書いてあるや…赤にします?」

「ちゃうって、俺が青やったらチカちゃんは赤やんか。ペア使いするヤツやん…赤使いいな、」

なんとカップルらしいアイテムか、千早は目を輝かせてにこやかに笑った。

 しかし知佳は

「えー、私は普段遣いの耐熱保温タンブラーがあるから…」

と、着色も飾りも無い魔法瓶構造の銀色のタンブラーを手にして困った顔をする。

 知佳は洗い物を減らすために最小限の食器だけでやりくりしているのだ。

「カップルやん、同じの使おうや、」

「水切りカゴのスペースも限られてますし…」

「俺が来た時だけ使えばええやんか、」

「めんどくさい…」

 揃いの食器さえ面倒だと言う知佳の根っこにある怠惰な部分、そこに触れた千早は怒るどころか「ぷは」と吹き出し、

「ひひっ…ほな分かった、その赤の方、ちょうだいな。ワシ家で使うから。ちょうだい」

と座ったまま手を伸ばした。

「え、」

「チカちゃんや思うて大切に大事に使うよ。『チカちゃんチカちゃん』、言うて」

掴んだマグを撫で回すそのジェスチャーに、知佳の口元が強張る。

「……」

「な、『あーチカちゃん、あったかいねー』、言うて。色んなもん入れて飲むよ。ペロペロ舐め回」

「分かった、分かりました!」

恋人とはいえ行き過ぎた変態行為をさせるわけにはいかない、知佳は赤色のマグも箱から出してスポンジで洗った。

「ひひっ…勝ったね」

「千早さんって…いや、なんでもない…」

 知佳は口を尖らせてマグの水を払い、冷蔵庫から麦茶を出してとくとくと注ぐ。

 これ以上追求してエッチな空気になると困る、知佳は数年ぶりの男女交際で距離感を誤ってはならないと細心の注意を払った。


 告白する時にも訪問されたがいきなりは無いと思った。

 しかし2度目だとどうだろう?「夜に男を部屋に入れる」ことの危うさは前回も千早本人から指摘されているのだ。

「(大人って、夜に部屋に入れると即ちエッチOKってことなのかな…そういうマナーとか暗黙の了解とかになってるのかな…聞くのは野暮だよな…シたいって思われちゃうかな…)」

「チカちゃん、」

「は、い、」

 冷えた麦茶をレンジで温め終わってリビングの千早の元へ運べば、彼はちょいちょいと手招きをして隣へ座るよう促してくる。

「ん」


 マグをコタツへ置いて希望通りに腰を下ろすと、千早は知佳のその肩へ頭を乗せてゆっくり細いため息を吐いた。

「…結構…長時間の運転はキツいね…」

「あ…はい…お疲れ様です…」

「そない…固くならんとって、チカちゃん。……なんもせぇへんよ…うん…襲ったりせぇへんから…安心して、」

 緊張を読まれていた、それはそれで恥ずかしい知佳はキコキコと頭を反対へ回して、紅潮した頬を見られまいとする。

「お気遣い…すみません…」

「んー…大切にしたいねん、んー……あ、チューはするよ、ん♡」

「あ、わ、」

おののいて振り上げた足先がコタツの脚を蹴って2つのマグがカチンと打ち合う、「麦茶、こぼれたかな?」知佳はそんな事を思いながら千早へ体を預けて唇を捧げた。


「チカちゃん♡商管室でもしてみたいなぁ、」

「あそこほぼガラス張りじゃないですか…隠れてもできない…んム♡」

「見せつけんねん…他の男らに…『俺の女や』て…ひひっ…楽しみや」

「実行しないで…ん、ん~……♡」


 千早はこの後ハグとキスでたっぷりと英気を養い、ほくほくと自宅へ向けてバイクを走らせるのであった。



つづく
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