自己評価低めの彼女は慣れるとデレるし笑顔が可愛い。

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
9 / 21
1月

9

しおりを挟む

 1月、新年セールも落ち着いた頃。
「上手いこと切るね、チカちゃん」
「んー、本当に、耳出さなくていいのかな?」
「ええよ、ちぃとでも顔隠したいねんもん」
「社会人としてどうなんだろ…」
 場所は知佳の家の風呂場、イスに腰掛けた千早は散髪をしてもらっている。
「短くなりゃええのよ」

 昨年末の何度目かの夕食デートの際、千早は知佳が髪をセルフカットしていると知り、是非にと頼み込んだ。
「なおさら、1000円カットでも行けばいいのに…」
 括ったり巻いたりするならまだしも、男性の髪はそのままの形で人目に触れるのであらも目立ち易い。何度も断ったが、「ここ人前でチューすんで」と脅され渋々承諾せざるを得なかったのだ。
「チカちゃんにしてもらうんがええんやんか」
 年越しはそれぞれで過ごし、本日お家デートの一環で実行している。
 上半身裸になろうとしたのだが知佳が止め、今千早は角を切った45リットルのゴミ袋をすっぽりかぶった状態である。
「もう、それくらいで…うん、うん…」
「むー」
 この男、好きに切っていいとは言うものの、「耳は隠す」だの「肩に付かないくらいに」などと女子のような細かい注文ばかりするのだ。
「就職活動とかどうしてたんです…?」
「ん?普通に制服で面接して、社長と会うて…資格の証書とか見せたよ?」
「へぇ…」
知佳は大卒、スーツにパンプスの堅苦しい面接しか経験が無かった。
「今の会社…ウツミは、そん時の先輩…同い年やねんけど、独立した会社。土建とか俺らみたいのは稼ごう思うたら独立せなね。高石たかいしも連れて大阪からこっち出てきてん…まぁ俺出資もしてるから肩書きだけは常務やねんけど」
「へぇ…色んな常務がいるんですね…」
ムラタは一部上場で従業員数もグループ含めて数万人、自身が社報で見た「常務」のそれと印象がだいぶん異なることに衝撃を受ける。
「社員数10人とかやから。零細よ、でもよぉして貰ってるから…ずっとおるつもりや」
「んー…だから、髪型とか何も言われないんですね…」
「せやね、ひひっ」
 まだまだ知らない世界があるものだ。見た目に惑わされない人間にならねば…知佳はそんな事を思い、ハサミを置いた。
「一応できた…けど…なんか青春パンクバンドのボーカルみたい」
 前髪と襟足は一般的な男性のものより長く、横髪で耳を隠し…長髪よりは幾分かマシになったが、それでも知佳が思い描く社会人像とはかけ離れている。
「そら、ムラタの男どもは接客業やからピッチリしとるやろうけど…俺らはこんなんでええのよ」
「ふーん……耳は出せばいいのに」
「え?チカちゃん、耳好き?」
「男の人は出してる方が…顔を大きく出してる方が好み…いや、ただの個人の趣向、」
 知佳がポツリとこぼせば千早は目の色を変え、
「ほな…切って、でももみあげは残してよ、」
そう言うとイスに座り直して背筋を伸ばした。
「はーい…なんか…可愛い人…」
「ん、なんて?」
「なんでもー………動かないで、………うん、………これで…どうです?前髪もいじる?」
「ええよ、チカちゃん好みにしてよ」

 長めにもみあげを取って後ろに回した髪をき…千早は元々の顔の小ささとシャープさが際立つヘアスタイルに落ち着いた。
「ええやん、カッコいい?」
「はい…もう試合が無いから髪を伸ばしてお洒落に目覚めた高3の女子バレー部員って感じ…かな」
「女子かい…言い得てるわ。前髪作ったん久しぶりや…また伸びたらよろしく」
「あ、まだ立っちゃダメ、払うから」
 ポリ袋に切った髪の毛が静電気で貼り付き、足元は真っ黒に散らかって…このまま水を出しても排水溝は仕事をしないだろう。
「ゴミ袋から頭を抜いて…で、一旦脱衣所に出てて、軽く髪の毛拾っちゃいますから…」
「うい」
 別の袋に髪の毛を集めて詰めれば、生首でも入っているのかと言うくらいの怪しい丸みと容量の荷物が出来上がった。
「じゃあ、千早さん入って…何回かシャンプーして…、ぎゃあ」
振り返れば千早はジーンズのボタンに手を掛けていたので、知佳は慌てて袋を持って脱衣所を通って廊下へ逃げる。
「すまーん、」
「ハラスメント…もぅ…」


 浴室からはシャワーの音が長らく続き、続いてドライヤーの音、サッパリとして千早が出てきた時には知佳はキッチンで昼食の準備をしていた。
「出たで、」
「はーい、……あ、いい!スッキリされました。清潔感があっていいですよ」
「俺はそない汚かったか?」
「違う、清潔感!爽やか、んー…私はどっちも好き」
 言いながら知佳がまな板へ視線を戻せば、カウンターキッチンの対面に千早は回り、
「もっぺん言うて」
と調子に乗る。
「……どっちも好き」
「おおきに、ひひっ」

 無邪気に歯を見せて笑うその表情は髪型が変わっても魅力がせることは無く、むしろより新鮮に知佳の心を打つのだった。



「なぁチカちゃん、会社にもあれと同じ車乗ってる奴いてるよなぁ」
千早はベランダで食後の一服中、そこから見える駐車場の車を指して知佳へ尋ねた。
「…あぁ、スポーツカー?うちの先輩のですかね?黒の。まさにその車ですよ」
知佳は食べ終わった昼食の皿を下げ、コタツの天板を拭きながらしれっと答える。
「へぇ……え?ここ社宅?」
「違うけど。うちの先輩…よく話題に出る松井まついさん…あの人の車です」
「はぁ⁉︎」

 千早の勝手に天敵認定の松井、彼は今知佳と同じアパートに部屋を借りているのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました

藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。 そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。 ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。 その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。 仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。 会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。 これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。

同期に恋して

美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務  高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部 同期入社の2人。 千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。 平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。 千夏は同期の関係を壊せるの? 「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。

幼馴染に10年片想いしてたら、冷酷御曹司にプロポーズされました

ほーみ
恋愛
 春の匂いが、駅前の並木道をくすぐる。満開の桜の下、私はひとり歩いていた。駅までの道は、高校時代、彼とよく歩いた道だ。  制服姿の学生が笑いながらすれ違っていくのを横目に、私はスマホを見下ろした。  「今日、伝えるって決めたんじゃなかったの?」  送信したきり返信のないメッセージ。画面には「既読」の文字があるだけだった。  ――渡瀬 湊。私が10年間片想いをしている、幼馴染。

処理中です...