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しおりを挟む翌々週。
俺が働いている間に産気付いた茉莉花は、帰省先の実家から入院した。
俺が「無事出産」の報せを貰ったのは退勤してからで、産院に駆け付けると俺の両親も既に見舞った後だった。
「立ち会いする予定は元々無かったとはいえ…水臭いよな」
満身創痍で寝たきりの茉莉花に、祝福の次にかけた言葉はそれだった。
「ごめんって…私、陣痛ですごい叫んでたから、空くんに見られたくなかったの」
「そんなにか」
「うん…お母さんにも当たり散らしちゃって…獣みたいだった」
「想像できないなぁ」
「でしょ?…本当の自分を見せるのも良いんだけどね、イメージを守りたい部分もあるの」
分かるけども命に関わることなんだから次は教えてくれよ…撮影データを見せてもらい何度かキスをして約束を交わす。
「茉莉花似かな」
「女の子は男親に似るって言うじゃない」
「茉莉花に似たら可愛いだろうなぁ」
「えへ…そう?でもそれだと、空くんに可愛がられてるの見て嫉妬しちゃうかも」
たぶん本当にそうなるんだろうな。
妻と娘に取り合いされるなんて夢みたいだ。
もちろん茉莉花を一番に可愛がるつもりだが…物理的に愛し合うのは数ヶ月は先のことだろう。
「茉莉花を優先するよ」
「本当ぉ?嬉しー…」
産後すぐだからと優遇されてはいるが面会もほどほどにした方が良かろうか。
茉莉花も眠たそうになってきたので腰を上げる。
「茉莉花、また明日来るから。ゆっくり寝て」
「うん…ありがとぉ…」
「…そうだ、茉莉花。あのスーツケースのカギの暗証番号教えてよ」
「……え!なんで⁉︎」
スーツケースとは言わずもがな、茉莉花のランジェリーコレクションが収められているあのスーツケースだ。
お腹が大きくなってから出番の無い、今やクローゼットの肥やしになっている茉莉花のお宝だ。
安定期以降になっても茉莉花は俺に体を許してくれず、妊娠発覚してからこっち俺たちはセックスレスである。
そりゃ子供のことを考えると当然とも思えるのだが、茉莉花が俺の誘いを断ったのは別の理由からだった。
「今穿いてるパンツ、見られたくないの」…辛抱堪らず口説いた際の、茉莉花の断り文句がそれだった。
膨らんだ下腹部や尻をすっぽり包む大きめなショーツが、茉莉花的には許せなかったらしい。
正直俺は気にならないのだが、彼女の美意識からすると営みに挑む用には力不足なのだそうだ。
なら最初から裸ん坊でしようなんて言おうもんならジト目で睨まれて、「じゃあひとりエッチすれば」と突き放されてしまった。
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