19 / 25
4
18
しおりを挟む茉莉花は夕飯前には帰宅して、俺の分もいつも通り用意してくれた。
でも食卓は殺伐とした空気で、そうしたのは誰でもない俺のせいなんだが居た堪れなかった。
・
「風呂どうぞ…茉莉花、あの」
「空くん、しばらく別々に寝よう。私はこっちで良いから」
風呂上がり、茉莉花は飾り気の無い素顔で俺にそう告げる。
隣に寝る気にはならないよな、でも妊婦をソファーでねかせる訳にはいかない。
「茉莉花は寝室で寝て。俺がソファーで寝るから」
「…良いの?」
「当たり前だろ。体は大切にしなきゃ」
疑った俺が言うことの白々しさよ。きっと茉莉花だって薄ら寒く感じているに違いない。
彼女が外出している間に俺も色々と考えたが、独りでは何もまとまらなかった。信頼していた俺の発言によって失望させてしまったし、俺はこのまま捨てられる可能性が高い。
信じ切れなかった俺の弱さが原因だ。何にせよ愛する茉莉花の子供なんだから喜ぶべきだったのに…出来なかった。
「…空くん、来週の火曜が休みだから産婦人科に行って来る。母子手帳の手続きしたり…会社に相談したりしなきゃいけないから」
「うん…」
「だから、それまでに……決めて欲しいの。私とどうするか」
「……茉莉花、」
俺とどうなろうと産む気なんだな、もう茉莉花は母としての気概ができている。
俺はといえば形ばかりカッコつけるだけ、茉莉花を労わる自分に酔っているだけだ。
浮気されて元カノたちと別れて、俺はずっと被害者意識ばかり大きくなっていたんだと思う。茉莉花の誠実さを試して、自分が上から審査するような偉そうなことをしていた。
小さい人間がいよいよ見切りを付けられるんだ。
「分かった、茉莉花の考えを尊重するよ」
と寝る支度に入った。
「……」
暗いリビングのソファーに寝転べば、壁の向こうの浴室からぱたぱたとシャワーの音が聴こえる。
足を滑らせたりしないだろうか、冷えたりしないだろうか。まるで変質者みたいに茉莉花の動く音に耳を澄ませた。
実際のところ、茉莉花が浮気をして妊娠した可能性は低いと思う。そんなことができる性格ではないことはよく知っているし、あらゆる手段でもそんな暇は無かったことは分かっている。精力剤でタガが外れたあの姿で他の男に迫る場面を想像してしまって、俺が勝手に裏切られた妄想に取り憑かれているだけだ。
性に貪欲な茉莉花で悪いことなんて無いはず。けれど1年数ヶ月見て来た清楚な彼女を俺はまだ理想として胸に抱き続けているみたいだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる