わかりあえない、わかれたい・7

茜琉ぴーたん

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後日談

後日談

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『明日さ、大事な話があるから…キレイにして来てよ』
デートを明日に控えた夜、彼氏は電話口でそうお願いする。
「へ?」
『いや、いつもキレイなんだけど、写真とか撮るかもしれないし。一生残るだろうから』
「うん?」
 分かるような期待し過ぎるのも怖いような、むず痒い気持ちがぞわぞわ迫る。

 彼とは交際ちょうど1年、イチャイチャと言うよりは少し落ち着いた付き合いだ。
 私は元カレから受けたサプライズプロポーズが若干トラウマになっており、その後は恋愛への意欲を失ってしまった。そんな折に会社の同僚が彼を紹介してくれて、気が合って話が合ってトントン拍子に交際まで発展したのだ。

 私は普段から「サプライズって苦手なんだよね」とは伝えており、彼も彼で正直なものだからその手のドッキリが出来ないそうだ。誤魔化し方が下手だから嘘もつけないし、人が良いから騙すことも出来ない。

 彼はきっと、明日のデートでプロポーズをしてくれる。でも急に言って困らないように、事前の連絡をしてくれている訳だ。
 普段着で来ないように、手を抜いた化粧で来ないように。それは彼の都合ではなく、後で私が落胆するといけないからだ。
「(好きだなぁ、こういうところ)」

 電話の向こうの彼はゲフンゲフンと咳を何度もして、
『あの、ぷ、プロポーズ…するから、夜景の見えるレストランで、だから記念撮影しても大丈夫なように、お洒落して来て欲しい…さ、察してよ…全部言っちゃったじゃん…』
と言い終わったらため息をつく。
 私からの答えも分かってるんじゃないの、でもそこはドキドキしてもらおうか。

「…楽しみにしてる」
そう返して、明日の幸せを噛み締める私だった。



おわり
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