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2章
5きゅん
しおりを挟む「…姉さん、さっきのさ、言ってた…助けてくれた人?sex中だから勢いであぁは言ったけど…その、自分を安売りしちゃダメだからね」
仲良く作ったオムレツにナイフを刺して、礼央は自身を棚に上げぽつりそんな心配を口にする。
「うん…もちろんだよ、そんな度胸無いもん」
「でもね、軽いガイジンのノリの方が近付くのは簡単だと思うよ」
「やっぱり?でももう結構素のまま話しちゃった」
「でも好意は伝えて無いでしょ?強引な女ぶってグイグイ行きなよ」
「え、でも安売りしちゃいけないんでしょ?」
真梨亜は均等に分けた残り物の麻婆の小鉢にご飯を落とし、ぐりぐり混ぜながら弟に目線だけ合わせた。
「coupleになって、見極めてからスれば良いんだよ。早まるなって言いたかったんだ」
「ふーん…礼央は経験豊富なのねー」
「お姉さまに教えてもらったんだよ♡」
「んー」
ボディータッチが異性に有効なことは真梨亜だって知っている。なんなら小学生時代からそれが効果覿面だということも分かっている。
ブラジル系アメリカ人の母から譲り受けた真梨亜の身体は発育が早く、良い意味でも悪い意味でも昔から目立っていた。出るところは前と横へ張り出し主張が強い。特に尻など大き過ぎる訳ではないがトップが高くウエストからのくびれ勾配が急で、制服のスカートの後ろが浮いてしまう。なので知り合いのテーラーにお願いして『穿いた状態で裾が水平になる』ように加工してもらったりもした。
角から飛び出して来た変質者に胸を触られたこともあったが、交番のお巡りさんから不当な扱いを受けて泣き寝入りしたこともある。「そんな体型してたら触りたくなるだろうね」というようなことをやんわり言われて、悔しくて誰にも言えずひとり耐えたのだ。
電車通学では痴漢にも遭ったし外国人からのナンパも増えてきた。合コンに行けば日本人からでも熱烈なアプローチを受けたりもするがどうも『ガイジンを従える自分』に酔っているようで気が向かない。
「(連れて歩いてstatusになるような女になりたくないの…ゆったり…ほのぼのしてたい…)」
成人してからは人を見る目が出来てきたし自衛も万全のつもり、今日の髪と眼を責められたのは予定外だったがそれも今後の対応次第では苦にならないのではと考えていた。
真梨亜は大学では英語や国際交流に関しての勉強をしていて、当然就職にもそのスキルを生かそうとしている。髪色が気にならない職種を選んでもいい、見た目を気にしないほど実力主義の企業を選んでもいい。ただ自分がそこまで有能かと聞かれればあまり自信は無くて、バリバリ英語を使用する職種にも残念ながらまだ関心が薄かった。
「ねぇ礼央、好きな人と同じ会社を選ぶって…不純かな?」
「良いんじゃないの?それがmotivationになることもあるよ」
「そっか…選考は6月からなの…ちょこちょこ連絡して動向を押さえておこうかな」
「stalkerにならないようにね」
「うん…気をつける」
・
不安も多い就職活動に差したひと筋の光、真梨亜は寝る前に今日貰った企業の資料をもう一度開いて深く読み込む。
「開発とか行かれたら…追いかけらんないかも…」
別に必ずしも同じ会社に入ることなんてない。けれど傍に居ると思えば不条理なことだって耐えられそうだし、第一毎日が楽しくなるだろう。
「…彼女…いるのかな…あんなに素敵だからいるよね…聞けば良かった…社会人になって誰かに取られちゃうのも嫌ぁ…ツバ付けときたい…そだ、mailしよ」
『こんばんは。大輝くん、突然だけど彼女とかいたりする?』
真梨亜は何回も打っては書き直して結局直球の質問をメールにて大輝へ送り付け…
『こんばんは。残念ながらいないよ。』
と返事が来れば珍しく英語で
「YES‼︎」
と両手を掲げ、幸福の中で眠りについた。
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