真梨亜さんは男の趣味が残念だ

茜琉ぴーたん

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18章(最終章)

55きゅん

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 それから日は経ち。

「……そして、君たち新人は、順風満帆じゅんぷうまんぼな社会人として……、」
「(今『まんぼ』、って言った…『まんぱん』じゃないのかな…?順風マンボ…歌謡曲のタイトルみたいだな…ぷふ…)」
 窮屈きゅうくつな合宿生活も最終日。
 本社と全国の合宿所をオンラインで繋いだ入社式、取締役のありがたいお言葉を聞き流しながら大輝が見つめる先、そこには金色に光る美しいポニーテールの頭があった。その頭も頓珍漢とんちんかんな言い間違いに「はて」と傾いて、金の尻尾しっぽがゆらゆら揺れる。

 立ち方からお辞儀の角度まできっちり教え込まれた研修も残り僅か、数百名の新人は皆ジャージからスーツに着替えて講堂のスクリーンを見つめる。
 年齢は高卒の18歳から院卒・中途の20代までさまざま、しかし中でも真梨亜は初日から目立っていた。
 例の如く真梨亜本人も緊張から萎縮いしゅくしてしまい同室のメンバーともあまり会話は出来なかったそうだ。
「(あともう少しだからね、真梨亜さん…)」
 この後は地区担当者から辞令書を貰い部屋の確認をしてそれぞれの地域へと帰るのみ、それには4月から働く配属先店舗と担当する部門が表記されているとのことだ。
 大輝は希望としては生活家電よりコンピューター系であればありがたいと思っており、店舗は自宅から通勤圏内の甕倉カメクラ本店・もしくは西店辺りで予想している。
 同期もそこそこ居るし連絡先も既に交換して顔合わせも済んでいる。帰りの電車の中でさらに仲を深めていけたらなと考えていた。
 ちなみにだが同期メンバーとは今後も合言葉のように「順風マンボで!」と独特なノリが続いて行くのだがそれはまだ先の話である。

今泉いまいずみくん」
「はい」
「これね、頑張って下さい」
「はい…あ、本店だ」
 大輝の配属は本店のPCコーナー、予想通りの結果に「ふむ」とうなずいて封筒に辞令を収める。

 さて真梨亜はどうだろうか、わらわら部屋へ散って行く人波の流れに乗りつつ気にしていると後方から
「ええっ⁉︎なんでぇ⁉︎」
と甲高い叫びが聞こえた。
「(…真梨亜さんの声…)」
「大輝くん、大輝くんっ‼︎これっ‼︎」
トタトタ走って来るスーツの真梨亜は振り返った大輝の腕にすがり付いて、貰ったばかりの辞令を広げて見せる。
「……横浜、え、横浜のお店になっちゃったの?」
「そう、なんで、大輝くんは?」
甕倉カメクラ本店…」
「よね⁉︎あたしも甕倉が良いィ、引っ越しなんてヤダぁ‼︎」
「どうどう…え、部門は?」
brandブランドぉ…やらぁ、人生設計がァ…」
 真梨亜の配属は横浜の大型店舗のブランド品コーナー、主に時計や香水・オイルライターと雑貨を扱う部門だった。家電屋の一部門と言えどもその集客量と売上額はあなどるなかれ。舶来はくらい時計1本出ただけで店の予算達成率がぐんと上がるのだから馬鹿にできない。特に都会の大型店ともなれば外国人観光客の『爆買い』に遭い高級品もじゃんじゃん売れる。真梨亜は恐らくだがそんな観光客への対応能力を期待されたのだろう。
「あー、英語とか中国語が話せるスタッフも増えてるよね」
「そうらけろォ…あたし、大輝くんと働くためにムラタ選んだのよ?離れちゃ意味ないじゃん…ふえぇ」
「全国展開企業だから予測できたことだけどね…厳しいことを言うようだけど、自分の能力を見込まれたんだから喜ぶべきじゃないのかな。仕事は遊びじゃないんだし」
「大輝くん…」
「…とりあえず部屋に戻ろう、続きは帰りに話そうね」

 大男にぴえんと泣きつく金髪碧眼はやはりここでも目立った。
 大輝は真梨亜の背中を女子の宿舎棟方面へと押しやって軽く笑う。
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