君の望む僕に、なろうと努力はしますけども。

茜琉ぴーたん

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 公親は総務の経理課に、龍進は企画営業部にそれぞれ所属している。
 経費や交通費の申請で龍進は公親を訪ねては、仲を育んできた。
 公私共に仲良くなるも、それを二人は友情だと信じ込んだ。だって相手が同性愛者かどうかなど、尋ねるにはデリケート過ぎる問題だったからだ。
 公親は龍進に彼女がいたことをもちろん知っていたから、まさか彼も自分と同じ趣向だなんて想像していなかった。なので、酔った勢いで「実は僕、龍くんのことが好きかもしれません」と明かした時…龍進が優しく「俺も気になってる」と返してくれて涙が出るほどに嬉しかった。
 友情もあるけどそれ以上の感情がある、想いを伝え合ってからは二人の仲はさらに良くなった。それからはキスをしたり抱き合ったり、セックス未満の触れ合いに勤しんできた。
 それが1年ほど続き、ようやくの今夜。最後の一線は「タチに誘われるのを待とう」と両者が信念を持っていたために、越えられなかったという訳だ。

「キミちゃん、俺がしても多分痛いよ。苦しませたくないって」
「でも僕、龍くんを抱きたいとは思わないんです…そういう器じゃないんです」
「んー……じゃあ、交代制とかどう?リバ。俺は、頑張って俺を抱こうとするキミちゃんを見たいんだよねー」
「龍くんのそれって、ワガママですよ…」

 しょぼんとなる公親の腰を、龍進は身を乗り出して抱く。このまま抱いてくれたら良いのに、と公親は当然ながら思った。
 しかし龍進は
「なぁキミちゃん、今夜はキミちゃんが俺を抱いてよ。そしたら次は俺がキミちゃんを抱くから。どっちもしっくり来なかったら、セックスは諦めたら良いよ。触り合いも充分気持ち良いんだしさ」
と脱衣準備にかかる。
 肌着を剥がし、色合いの異なる素肌を晒し合う。
 龍進も自慢の筋肉を誇示して、でもすぐにコロンと寝そべった。そして脚をひっくり返ったカエルのように曲げて、両腕を公親へと伸ばす。
「…龍くん、」
「なぁ、キミちゃんの、ココに挿れてみてよ。無理なら止めれば良いんだから」
「……」
「それとも、俺じゃ勃たない?」
 逞しい胸筋の向こうから、大好きな男の顔が笑う。
 弄り合いだってシックスナインだってして来た、その度に興奮していたのは分かっているはずだ。
 公親は震える指でスキンを摘む。
 息をふーっと敢えてゆっくり吐き、
「勃たない訳、ないでしょう」
と唇を舐めた。

「キミちゃん、カッコいー」
「ズルいんですから…愛情を試すなんて…待って下さいね、自分に着けるのは…不慣れなんです……男性側…こ、こうですか?」
公親はスキンを開いて、既に猛っていた自身に被せる。
「そう、くるくるって、根元まで…元カレには着けてあげてたんだ?尽くすタイプだったんだね…わー、ゾクゾクする」
「仕方なくですよ、僕がしなきゃナマでしたがる人だったので……あ、そういや、慣らさなくて大丈夫なんですか? いじり合いはしてたから多少は慣れてるかもしれませんが」
「自主練して来たから平気だよ。キミちゃんに抱かれる準備、ちゃんとしてる」
「あなたって人は…」
「俺、トレーニングとか積み重ねが好きなんだー」
 くしゃっと龍進が笑って、公親のハートに火が灯る。
 膝の位置を決めて、じりじり近付いて。
「お、お願いします…ココですよね、痛かったらごめんなさい」
「いーよ、キミちゃんなら痛くても平気♡」
「そういう訳にはいきません…緊張する……行きますよ、ふー…」
 毛を分けて、潤滑剤が先に進む。そこに時間差で、公親の温もりが侵入した。
「おはッ♡あー、そういう感じ、な、ん、だッ…」
 ぴりっと体が痺れて、痛みが襲う。人間ドックで行った直腸検査よりも、強い衝撃だった。
「だ、いじょうぶ、ですかッ…あー…ヤバい、龍ぐんッ…あ、キツ…締め、過ぎです、引きつり…痛い!」
「え、ごめん、緩めるってどーしたらいーの、あ、気持ちーけど、」
 龍進の日々のたゆまない努力は、意図せず肛門括約筋さえも鍛えてしまっていた。攻める側からすれば有り難いことなのだろうが、その締まり具合は過剰だった。
「龍くん!痛い、ぅあ、ろぉじよッ…ぎもぢッ…けど痛い!ですっ!」
「あ、あー、キミちゃん、攻めの顔、さいこー、超カッコいー♡あ、でもなんか、吐きそー、」
「しめ、ないで、なんで、こっちが痛い、の、」
 どったんばったんと、ベッドが揺れる。スッポンのように離さない龍進から逃げようと、公親も必死に暴れた。
「キミちゃん、そんな動かないで、ぅおえッ!ケツ切れちゃうよ!」
「ごっぢも、千切れまずっ…龍ぐ、あ、はァ」
「一旦抜こっか、ツラいな、」
「だから、龍くんは、じっとして…!」
 公親が悲痛に訴えて、やっと龍進は大人しくなる。
 そして緩んだ後ろから引き抜いた自身を見下ろして、公親は安堵のため息を吐いた。
「…すっごい…龍くん、締め過ぎ、鍛え過ぎ…本当に千切れるかと思いましたよ」
「あは、ごめん…」
「どんな自主練したんですか」
「フツーに力入れたり。拡げるのはオモチャなどで……キミちゃんのちんぽ、超ガチガチで良かったよ、イカせてあげらんなくてごめんね」
「いえ…正直、気持ち良かったんですけど…これでイくのはもったいないっていうか…なんか違う気がして…」

 二人の初セックスは誇張無しに秒で終わった。
 公親は仕事不足なスキンをピンと引っ張って外し、ティッシュを探す。
「なぁキミちゃん、俺ら…セックス無しでやっていくのが良いんじゃないかな」
ベッドサイドのティッシュボックスに手を伸ばした公親を見上げ、龍進は呟いた。
「…でも」
「触ったり舐めたりで気持ち良くはなれるんだし…人に公開することでも無いしさ」
「龍くんは、それで良いんですか?」
「俺は、ツラそうなキミちゃん見てる方がツラいよ…普通のカップルでもさ、年齢重ねるとセックスレスになるって言うじゃない。でも心は繋がってたら…それで良いじゃん?」
龍進は公親の首に腕を絡め、引き寄せ倒す。
 細身でも好みな筋肉質の体、龍進は愛を込めてぎゅうと抱き締めた。
「そう、ですね…」
「ね、それで幸せじゃん」
「……」

 漂う男の匂いとラブな空気。しかしそれで終わると思いきや、公親はムクっと起き上がり龍進を見下ろした。
「キミちゃん?」
「龍くん、良いようにまとめてますけど、次は龍くんが僕を抱く番なんですけど」
「あ、忘れてなかったかー」
「わざとはぐらかそうとしてたんですか?ちゃんとしましょう。こっちは上手くいくかもしれませんから」
「んー」
抱くのは趣味じゃないのになぁ、龍進は渋々といった面持ちでベッドサイドの小箱に手を掛ける。
 中のスキンを1枚摘んで、深いため息を吐いた。
「はあぁ~」
「何ですか」
「いや、ご存知だと思うけどさぁ、俺、デカいよ?絶対痛いって」
 これは虚勢ではなく、事実であった。龍進は体格に見合う立派なモノを持っており、使い込んでないので色こそ薄いが勃てば迫力がある。
 張りも浮いた血管も自慢のボディの筋肉にそっくりで、公親は日頃からそれを愛でては「いつ抱いてくれるんでしょう」とひっそり問い掛けていた。
「だから、それを想いでカバーしようって」
「綺麗事じゃ済まないかもよ?物理よ。血が出るかも」
「だから、弄り合ってきたじゃないですか…龍くん、お願いします…僕を、抱けませんか?」
公親は跨ったまま、愛しいソコをつるつると撫でる。
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