2 / 6
2
しおりを挟むならば血の方か。
無理やりにされるのは御免なので息を抑えながらパジャマのボタンを数個開ける。
さっさと終わらせてくれ、と首筋から二の腕まで露わにしてやると、意外にも彼は両の手を出してこちらにストップをかけた。
—ちょいちょい、お姉ちゃん。
人の話は聞かな…人ちゃうけど。
ちょい、しまって、オンナがそんなん簡単に見せたらアカンで
この人…人じゃないらしいが、何を言っているのか。そのオンナの部屋に入ってきておいて説教をするというのか。
いや…入るよう許可を出したのはこちらなのだが。
「噛み付くんじゃないの?」とボタンを直し尋ねると、思わぬ答えが返ってきた。
—ちゃうちゃう、よぉ見て、ほら
男はイーっとその歯を見せ、
—わしの歯、な、前歯がデカいやろ?
と宣う。
確かに男の歯は前歯というか全体的に大ぶりに並んでいて、犬歯もそれに倣ってあまり目立つほど尖ってはいない。
しかしいったいそれが何なのか。
こちらの困惑にはノータッチで男は話を続ける。
—前歯がデカいとな、糸切り歯が使いもんになれへんねん
ははぁ、ヴァンパイアといえば鋭い牙。首筋にカプッと噛み付いて生き血を戴く…そういうものだと思ったから服をはだけたのだが、必ずしもそうでは無いらしい。
ヴァンパイア界では歯並びの良さは犬歯の尖り具合で決まったりするのだろうか。まるでコンプレックスかのように男はちょいちょいと指で歯をなぞり険しい顔をする。
ならば刺さりやすい部位が他に有るのか。
勝手に服を乱した恥ずかしさを隠しつつ「どこなら噛みやすい?」と尋ねてみた。
—いや、前歯でいくと肉が千切れるやん。
さすがにそこまでは望んでへんよ
確かに。
命は取られないし大きな怪我をする事もなさそう、身の安全を少し喜ぶもまだ危険の可能性が残っている。
侵入してきて悠長に話をしているが、もしやオンナとしての危機が迫っているのではないか。
ヴァンパイアとて少しは人を選んでいることだろう。
こちらのオンナの部分をあてに来られているとしたら…そこまで考えたがこの仮説は立ち消えとなった。
男は大きな口を開けてクアァとあくびをし、狭い部屋を歩き冷蔵庫を物色し始めたのだ。
—なんや、食いもん入ってへんの。
メシ食うてる?
なんや顔色悪ない?
ヴァンパイアは当然夜行性なのだろう。スタンドライトしか点いていないこの暗がりでも流石こちらの加減が分かるらしい。
確かに諸事情で若干の貧血気味でもあるが、こちらすっぴんだとこれが平常運転なのだ。
或いは、自覚こそ無いけれど未知との遭遇に青ざめている、という線もあるが。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
透明な貴方
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
政略結婚の両親は、私が生まれてから離縁した。
私の名は、マーシャ・フャルム・ククルス。
ククルス公爵家の一人娘。
父ククルス公爵は仕事人間で、殆ど家には帰って来ない。母は既に年下の伯爵と再婚し、伯爵夫人として暮らしているらしい。
複雑な環境で育つマーシャの家庭には、秘密があった。
(カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています)
婚約破棄が聞こえません
あんど もあ
ファンタジー
私は、真実の愛に目覚めた王子に王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を宣言されたらしいです。
私には聞こえないのですが。
王子が目の前にいる? どこに?
どうやら私には王子が見えなくなったみたいです。
※「承石灰」は架空の物質です。実在の消石灰は目に入ると危険ですのでマネしないでね!
私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる