トラットリア・ヴァンピール

茜琉ぴーたん

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 ならば血の方か。
 無理やりにされるのは御免なので息を抑えながらパジャマのボタンを数個開ける。
 さっさと終わらせてくれ、と首筋から二の腕まで露わにしてやると、意外にも彼は両の手を出してこちらにストップをかけた。

 —ちょいちょい、お姉ちゃん。
  人の話は聞かな…人ちゃうけど。
  ちょい、しまって、オンナがそんなん簡単に見せたらアカンで

 この人…人じゃないらしいが、何を言っているのか。そのオンナの部屋に入ってきておいて説教をするというのか。
 いや…入るよう許可を出したのはこちらなのだが。
 「噛み付くんじゃないの?」とボタンを直し尋ねると、思わぬ答えが返ってきた。

 —ちゃうちゃう、よぉ見て、ほら

 男はイーっとその歯を見せ、

 —わしの歯、な、前歯がデカいやろ?

のたまう。
 確かに男の歯は前歯というか全体的に大ぶりに並んでいて、犬歯もそれにならってあまり目立つほど尖ってはいない。
 しかしいったいそれが何なのか。
 こちらの困惑にはノータッチで男は話を続ける。

 —前歯がデカいとな、糸切り歯が使いもんになれへんねん

 ははぁ、ヴァンパイアといえば鋭い牙。首筋にカプッと噛み付いて生き血を戴く…そういうものだと思ったから服をはだけたのだが、必ずしもそうでは無いらしい。
 ヴァンパイア界では歯並びの良さは犬歯の尖り具合で決まったりするのだろうか。まるでコンプレックスかのように男はちょいちょいと指で歯をなぞり険しい顔をする。
 ならば刺さりやすい部位が他に有るのか。
 勝手に服を乱した恥ずかしさを隠しつつ「どこなら噛みやすい?」と尋ねてみた。

 —いや、前歯でいくと肉が千切れるやん。
  さすがにそこまでは望んでへんよ

 確かに。
 命は取られないし大きな怪我をする事もなさそう、身の安全を少し喜ぶもまだ危険の可能性が残っている。
 侵入してきて悠長に話をしているが、もしやオンナとしての危機が迫っているのではないか。
 ヴァンパイアとて少しは人を選んでいることだろう。
 こちらのオンナの部分をあてに来られているとしたら…そこまで考えたがこの仮説は立ち消えとなった。
 男は大きな口を開けてクアァとあくびをし、狭い部屋を歩き冷蔵庫を物色し始めたのだ。

 —なんや、食いもん入ってへんの。
  メシ食うてる?
  なんや顔色悪ない?

 ヴァンパイアは当然夜行性なのだろう。スタンドライトしか点いていないこの暗がりでも流石こちらの加減が分かるらしい。
 確かに諸事情で若干の貧血気味でもあるが、こちらすっぴんだとこれが平常運転なのだ。
 或いは、自覚こそ無いけれど未知との遭遇に青ざめている、という線もあるが。
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