トラットリア・ヴァンピール

茜琉ぴーたん

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 平日は余裕が無くレトルトや冷凍食品頼み、買い物は明日行く予定だったから冷蔵庫にはあまり食料品は入っていない。週末は心身の休息を兼ねて料理などしたりもするが、ここ数週間はヤル気が起きずに何もできていなかった。
 有るのは牛乳・卵・調味料。
 はて、この不躾ぶしつけなヴァンパイアににんにくチューブは効くのだろうか。
 そんなにわかに湧いた好奇心を満たそうと思った矢先、男は冷凍庫の化石、いつぞやの作り置き餃子を見つけ、歓喜した。

 —おっ、ええやん!
  これあっためて食お
  人間は食料こさえるんが上手ぁてええなぁ。
  あ、ワシにんにく効かへんよ。
  むしろ好物やさかい

 なるほど、場数を踏んでいるのかこのヴァンパイアは人間の浅はかな考えなどお見通しのようだ。
 ならばもうこちらもなすすべなし。
 夜明けまで待つよりできれば早く帰ってほしかった。
 しかし男は保存容器の封を開けてしまった。

 —フライパンは?
  なぁ、コレ?
  何個入る?
  お姉ちゃんも食うやろ?

 深夜に餃子をヴァンパイアと食べる、もう訳が分からないがとりあえず「やります」と申し出て、育て中のスキレットをその手から奪い取った。
 こんなことになるなら、気まぐれに餃子など作るんじゃなかった。

 普通のフライパンに半量の6個程度を並べて加熱すること10分。
 ヴァンパイアはスタンドライトの替わりに部屋の明かりをしっかり点けて座卓の横へ腰を下ろし、キョロキョロと部屋を見回しては時折こちらを確認している。
 まるで初めて恋人の家を訪れた男子のような可愛げを見せるが、その異様な出で立ちは明かりの下で更に異様だった。
 どうせ十字架も効きはしないのだろう。彼が尻に敷いたクッションには山ほどギリシャ十字がプリントされているが体調に問題はなさそうである。

 さっさと食べて帰ってもらおう、焼き上がった羽付きの餃子を皿に返し、タレと箸を一緒に出した。最初はフォークを付けたのだが、かなり奇異そうな顔でこちらを睨むので箸に替えてやったのだ。

 —ええやん、美味い

 男は実に旨そうに箸で餃子を頬張りながら、人間界の食べ物の質とコスパを褒め称える。
 へぇへぇと相槌を打ちながら聞いてやると、気を良くした男の方から最近のヴァンパイア事情を教えてくれた。なんでも、この男は割と頻繁にあちらと人間界を行き来して過ごしているらしい。

 —血ィが何より美味い言うてたんはジジイくらいやな。
  今はほら、美味いモンは他にもようけ有るさかい

 ますます分からない。美味いものが欲しければ飲食店にでも行けば良かろうに。
 その旨を男へ伝えると、

 —いや、たまには血ィも呑みたなんのよ。
  若い女の血ィね、これがいっちゃん美味いから。
  贅沢品よ

とニッコニコで答えた。
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