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エピローグ・憎くて愛しい
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しおりを挟む「平日だからお客さんも少ないかな」
夫は運転席からそう投げかける。
「そうですね」
今日私たち夫婦は揃ってお休みで、気候も良いことだしサービス業でなかなかカレンダー通りの休日も無いものだから家族の思い出作りにと出掛けるところだ。
息子は保育園を休んでのお出掛けにドキドキソワソワしている様子、土日祝も預けがちだし行き先は水族館とあって興奮しているようだ。
「お父さん知ってる?お母さんね、耳に穴が開いてるんだよ」
「耳?みんな開いてるじゃない」
「ちがう、下のところ、何だっけ、飾りを着ける穴」
「あぁ、ピアスな」
「そう、ピアス。針で開けたんだって!」
後部座席の息子は鼻息荒く、さも「この人不良です」とばかりに夫へ訴えかける。
すると夫は横目でチラリと私を見遣り、
「痛かったろうね、…水蓮?」
と口の端だけいやらしく笑った。
「もう憶えてません…」
「そう」
夫が示しているのはきっと耳ではなく見えない方…この服の下の乳首の方だ。
今日はお出掛けとあって彼から貰ったニップルピアスを着けて臨んでいる。運転中だから視線はくれないが、私にだけ見えるように舌舐めずりされると串刺しになった乳頭がぴんと勃つのが分かった。
憶えていない、これは本当で…病院の雰囲気とかは何となく記憶にあるのだけれど、泣いたのか叫んだのか、その時育ての親がどんな顔をしていたかとかは全く憶えていない。
当時一緒に住んでいたお姉さん達もそこに輪っかが付いていたからそれが当然だと思っていた。笹目家ではそれがルールなのだとすんなり受け入れてしまっていた。
今では気に入っているし夫も慣れてくれたから塞ぎたいとも思わないけれど…一般的じゃないという自覚はある。
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