泥より這い出た蓮は翠に揺蕩う

茜琉ぴーたん

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4・支配からの、解放

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「水蓮…」
「ごめんなさいっ…私、あの、すみません、変な…変態でっ…すみま、せん…」
 はらはらと溢れる涙が白い乳房に落ちて、水滴がブラジャーに染み込んでいく。
 俺はとりあえず不慣れな手つきでストラップをあるべき場所に接続した。
「落ち着いて、変態だなんて誰も言ってないだろ」
「だって、だって…」
「俺が…慣れれば良いんだ、最初からそう言ってたじゃないか」
「でも、うっ…拓朗さん、」
「ピアスを着けた水蓮を愛せるよう…努力するよ、きちんと着けておいて」
 そうは言いながらも俺は彼女に背を向けて、取り急ぎ挿しただけのピアスを直す時間を設ける。
 一度引き抜いて蹄鉄ていてつを挿し乳頭を貫く、そして蹄鉄のもう片側にも通して球で封をする。見えやしないが、その手順で着けていることだろう。
 横目でおしぼりを確認すればそこは空になっていたのでやっと振り返った。
「…大丈夫かな」
「はい、ちゃんと…」
「気持ちも落ち着いた?」
「…はい……すみません」
 しょぼんとうつむく彼女はボタンも綺麗に留め直していて、ピアス付きの胸を見ずに済んだ俺は露骨に安心した。
「精神安定剤…みたいなものなのかな、だとしたら尚更外すわけにいかないな」
「……」
「問題は…どうやって慣れるかだよな…」
「毎日、見たり触ったり…」
「そうするしか…ないのかな…」
 おしぼりを丸めて冷や汗をかいた顔をガシガシ擦る、彼女から見えないのを良いことに俺はピアス無しの乳房をちょっとでも憶えておこうと目を閉じ脳内呼び出しをかけて復習する。
 もっと触って味わえば良かったな、数分なら外せるからその隙を狙えば良いのか。
 よく迫力ある体を『ダイナマイトボディ』なんて称すけど、彼女の乳房はまさしく危険で凶暴だった。
「どういった所が、苦手ですか?」
「え、どう…って…」
 乳房のピアスひとつで拒絶するなんてまるで体目当てだ。
 でも俺が気にしているのはそこに穴を開けよう・そこに器具を着けようという発想自体で、性欲をねじ伏せてしまう生理的嫌悪感が仕事をするのでどうしようもない。
「その…ね、……、……、」

 掻い摘んでちょっとでも柔らかく伝えれば彼女はうなずきながらどんどんと表情が暗くなってくる。
「ごめん、水蓮のことは好きなんだ、別れたいとも思わない。でも…体が…」
「仕方ないですわ、変ですもの…」
「変じゃない、俺に耐性が無いのがいけないんだ…」
話は平行線でこれは事実上の別れ話、少しでも遠回りしようと言葉を選ぶも解決できる道など見つからない。
「慣れ…ませんよね…こんなの…」
「んー…」
 彼女が大切にしてきた物をけなしたくないがあの金属のフォルムも苦手要素のひとつ、
「形…なんかその丸い…球が…機械っぽくて…拷問器具みたいで…怖いんだ」
と漏らせば意外や彼女の顔色が変わった。
「…なら…可愛らしいものなら…大丈夫でしょうか…?」
「なに、」
 可愛いピアスだって基本構造は同じこと、乳首は何も着けてないプレーンが一番可愛いに決まっているのに。
「拓朗さま、あの、私に、新しいピアスを、拓朗さまが選んだ専用の、ピアスを…着けさせて下さいませんか?」
ちゃっかり様付けモードに入った彼女は瞳をキラキラ輝かせて、活路を見出したとばかりに鼻息を荒くする。
「………え」
「拓朗さまが『これだ』と、私に似合うものを、拓朗さまが大丈夫なものを…大きくても構いません、あ…制服に響くものは無理ですが」
「んなの選ばない」
「反対に小さい物でも…拓朗さまの…拓朗さまに支配されている私を…作っていきたいのです」
 これが料理の味付けとかトイレの便座の使い方とか夫婦間でよくある係争ごとなら「健気けなげな女だ」と思えるのにな、実に残念でならない。
 けれど献身を体現しようとする彼女は心からナイスアイデアだと考えているらしく、吹っ切れたようにホウレン草のお浸しに箸を付けて俺に「あーん」と給餌きゅうじしてきた。
「ウ、ウン」
「金属ではないものもあるんですよ、あと南京錠の形とか…鎖を付けて引っ張れるものもあるんです、お好みのものをピックアップしておいて下さいね。また次のデートでプレゼンし合いましょう」
 だからプレーンが一番好みなんだ。
 理解してもらえてるのに言い出せない俺は自棄やけになり彼女の腰肉をふにふに摘んで憂さ晴らしに励む。
「あ♡嫌ですわ、ん♡」

 これすらもご褒美になるのだから手に負えないな、彼女がしたいように食事の世話をしてもらい食べ切ったら駐車場でキスをして解散した。
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