ライアー・ブライド…真面目な僕らの偽装結婚

茜琉ぴーたん

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 かおる甕倉カメクラを去って半月。聡太そうたの生活は以前のように戻ったようで僅かに差もあった。
 家はアパートのままだし見合い話も来ないしでそれなりに快適だ。しかし食事の質はぐんと下がり最近肌荒れが気になり出している。自分ひとりのこととはいえ掃除も洗濯もせねばならないし、安いが家賃もかかる。実家に戻ればそれらは解消するのだが、聡太は薫と暮らしたこの部屋を離れることが出来なかった。
 それにもう半月すれば退去の最終立ち会いに薫が三重からやって来るのだ。仕事で遭遇できなくても置き手紙とか何らかのアクションがあるかもしれない。
 ちなみにだが薫が引っ越した日の夜、『無事に着きました』とメッセージが入ったきり連絡は途絶えてしまった。
 聡太から返事を送っても『既読』マークが付かない。要は向こうからブロックされてしまったようだ。
 電話は試していないが繋がったところで何も伝えることは無い、関係を切ろうとする徹底ぶりが薫らしくて聡太はため息も出なかった。

 会社では薫が抜けた分少しバタついたが、転勤が決まってからすぐに後進の育成と引き継ぎを始めたので今のところ順調に事務方は機能しているらしい。

 薫が居なくなったって何も大きく変わりはしない。
 しかし聡太は日に日に虚しさが募って動悸がするようになってしまった。
 好意を寄せて一方的に身を引いて行った薫。
 間に嘘が入ったからこうなってしまったがあれが無ければもっと上手くいっていたはずだ。普通に薫から「好きなの、お見合いなんてしないで」なんて言われればそこから意識し始めたことだろう。すぐに交際に発展せずとも見方を変えて女性として扱って、きちんと恋愛を始められたに違いない。
 しかしそれでは異動の知らせが来るふた月の間にここまで深い関係にはなれなかったか。プラトニックなまま遠距離恋愛に突入していただろうか。

「(いっそ、何も起こらなければこんな気持ちにならなかったのに)」
 騙されて悔しい気持ちは相変わらずある。けれど薫を失った虚無感がエグいほどに二人の思い出を際立たせて心を占拠する。
 好きだと言っておいてさっぱり去って行く潔さ、泣いてはいたが「別れたくない」とすがってはくれない彼女のツンな性分。割り切って遊ぶにはちょうど良い女性だったのかもしれないが聡太はそんなことを望んじゃいなかった。
 連絡は取ろうと思えばどうにでもなるのだ。異動先の店舗が分かっているので電話なり突撃なりで捕まえることはできる。しかしそこまでしてどうしたいのか、聡太は決めかねている。
 ハイスピードでそれでいて穏やかに過ぎて行った2ヶ月間。流されるだけではなく自分の意思でそうした訳だが独りになって聡太は寂しさと裏腹になんだか釈然としない。
 短期間で燃え上がる恋なんて派手なものではなくて、本当に少しずつ隙間を詰めた純愛みたいなものだった。一線を越えたから腹立たしさもひと塩、そして終始泣いて説明した薫の一転引き際の良さも胸糞悪い。
「(結局…薫ちゃんは何が目的だったんだ…?)」
 あのまま結婚に漕ぎ着けたとて壮健な両親に会えば「は?」となったに違いない。人前で大喧嘩してそのまま破談になっていても不思議はない。
 つくづく薫の不可思議な行動とデレ部分が心に残って仕方ない…聡太は毎晩カレンダーを眺めては薫との再会に想いを馳せた。


 一方地元・三重県の店舗へ入って半月…薫は難なく馴染んで快調に業務を任されていた。
 これまでの甕倉カメクラ本店よりも少し規模の小さい店で、客数はそこそこで以前よりゆったりしたペースで1日が過ぎて行くのが薫にはありがたかった。
清水しみずさんはこっちが地元?」
「そうなんですよ、神奈川が長かったんですけどこっち戻ったらすぐなまってまいましたわ」
「親しみやすぅてええやんか」
「あはは」
 慣れた言葉に気さくな同僚たち。彼女は少し人付き合いに対する考え方を改めている。
 壁を作ってツンツンしていたのは元々の性分で周りから「そう見える」キャラクターを守るためでもあった。しかし聡太と離れて酷く淋しくなった薫は積極的にコミニュケーションを取るよう努めていた。
 単純に侘しくて、心の穴を埋めたくて…こちらに戻ってからは化粧もナチュラルにして眉の形なんかも優しめに整えている。
 新しい恋を見つけようなんて気持ちはまだ無くて、それどころか実家の両親からは「ほれ見たことか!」と相当に罵倒されこてんぱんにのされてしまった。

 聞けば弟が近々結婚の挨拶に恋人とその両親を連れて泊まりがけで来るらしく、その際の客間として薫の部屋を明け渡せとじりじり圧力を受けている。
 ならばいっそひとり暮らししようかな…降りかかるアンラッキーは全て身から出たサビと割り切った薫は、引っ越し荷物もほとんど開封せずに空き時間に物件情報などをボーっと眺めて過ごしていた。
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