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しおりを挟む彼女の祖父で現当主の貴治氏は戦後のゴタゴタした時代にこの地で不動産業を興した。
土建・造園・飲食にまで手を広げて「神石グループ」を一代で作り上げた地元の名士である。
中でも盛況なのは旅館業…山の中の静かな温泉旅館「じんせき」。
その麓の神石家本宅の屋敷に貴治氏と雅、離れには住み込みの使用人が、隣の敷地にはグループの従業員の寮も建てられており、皆が家族のように暮らしている。
垣内と和久の所属は土建屋だが使用人でもあるため離れに住み、雅の送迎の時だけこうして黒服に身を包んで、彼女の父の車に乗って意気揚々と学校までやって来るのだ。
雅の母は貴治氏の一人娘で名を冴子という。
現在は山の上の「じんせき」にて静養しており、たまに女将として客人へ挨拶に出る以外は部屋に引き篭もっている。
冴子はほわほわとした朗らかな女性で、しかし幼少期より体が弱く、大人になっても屋敷に篭り、あまり陽に当たらない生活を強いられていた。
勤め出した垣内たちも直接会う機会は少なく、本宅での集まりなどの際にチラと見える程度、雅の使用人になった今でも彼らの名前すら覚えられてはいない。
見合いで婿取りをして懐妊出産、しかし産後の肥立ちが悪く体を壊してしまい、今では体は動くが1日の大半を自室で過ごしている。
垣内と和久は赤子の世話ができなくなった冴子の代わりに雅の世話係に任命された。
それは単純に若くて体力があってという理由だそうだが、実際には下っ端なので使用人と並行しても業務に支障が無いからという失礼な理由でもあった。
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