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しおりを挟む13年前。
冴子はその日も屋敷の窓から庭や作業場を見下ろし、ぞろぞろと連れ立って歩く従業員たちを眺めては人間観察をしていた。
最近入社したとある青年はその風貌が目立っていて、すぐに彼女の目に留まり定期的なウォッチ対象となる。
「(若いし、男らしくて…可愛らしい…)」
彼女は既に結婚していたが婿殿は冴子より仕事に夢中だ。
元より大して好きでもなかった婿殿よりもその青年は魅力的で、欲求不満が募った彼女の心は一気に彼へと向かって行った。
ある日の夜冴子が廊下を歩いていると、中庭に面する窓からもくもくと煙が上がっているのが見えた。
慌てて外を確認すると、そこには母屋を窺いながら煙草を吸う男がいた。
「あんた…何してんの…危ない……!」
「あ、奥様…すんません、あ…」
庭用の小さな灯りに照らされて浮かび上がったのは意中の青年で、初めて目と目が合った。
バルコニー越しの戯曲のようなシチュエーションに箱入り冴子の心は異様に踊る。
「……あ、あんた、未成年やないの?……名前と所属は?」
「か、垣内隼人です…土建の方で…すんません、あの…」
「垣内、ね、………親方に隠れて悪い子……安心し、黙っとくから。……そっちの、道に近い方がここからは見えへんから安全よ、火事には気ぃ付けてね、」
青年の名前を手に入れた彼女は平静を装いその場を離れ、彼の名を胸に刻みながら夢路につく。
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