彼女は銀狼ギャル、ときどきコアラ

茜琉ぴーたん

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ファミリー

46(最終話)

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 車崎が辞めた後は指名客がごっそり流れてしまい僅かに元職場から恨まれもした。
 しかしミズモリの設備で限界がある作業は秋花が窓口となり元職場に紹介するなど、公式ではないが提携という形でうまくやっている。

 そして彼が独立してから2年、秋花も会社を辞めてミズモリ車装へと合流した。
 そうなると彼女の指名客もミズモリへ足を運んでくれて、現社長の車崎と秋花と相談役兼会長・水本みずもと元社長、そして孫娘・幸希こうき、知識と経験と技術を共有し合って経営は軌道に乗る。
 その2ヶ月後に秋花は「車崎秋花」となり…元同僚や上司、家族友人を招いて華やかな結婚式を挙げた。


 そして、現在…
「母さん、ミラちゃん…お世話になりました」
少しやつれた秋花はオムツなどを詰めたマザーバッグを肩に掛け、母と義姉へ挨拶をした。
「ええよ、またいつでも来れるんやから」
 義姉である未来みらいは靴を履く秋花を待って、
「せやで、困ったことあったら言うてな、はい」
微睡まどろむ赤子をその母へと返す。
「言うてもミラちゃんやってお腹大きいのに…ほんまありがとうね」
「ええって、もう…家族やんか。しゅーちゃんは真面目なんやから」
この未来も現在7ヶ月の妊婦で、初めてのことに戸惑う秋花の里帰り出産を様々な面から手助けしてくれた功労者であった。
晋太郎しんたろうくんの真面目がうつったんやろ」
「どうやろなあ…あの人は真面目で、ピュアやねんな」
痩せた母とは反対にぷくぷくの赤子の頬をつつき、秋花は慈愛に満ちた面持ちでニコと笑う。

 宿泊荷物を車へ積み込んでいた車崎が駐車場から和みきった空気の玄関へ戻り、
「シューカ、載せたで…これも貸して、」
と妻のマザーバッグもその肩に担いだ。
 そして
「ほな、お義母さん、お義姉さん、シューカがお世話になりました、ほんまに助かりました」
と細い目をさらに細くして心からの礼を述べる。
「うん、しんどいことあったら頼りなさい、そっちのご両親にもよろしく、力を貸してもらいなさいね」
「はい……したらお義母さん、」
 さらに車崎はジャンパーの懐から白封筒を出して
「これ、嫁と息子の滞在費です、納めて下さい」
と両手で差し出すも、
「おおきに晋太郎くん…ほなこれ、私からの出産祝いや、内祝いは要らんで、子供のことに使いなさい」
と突き返されてしまった。
「…おおきに、すんません…じゃあ、いっくんもバイバイな、また来るからな」
「うん、バイバイ!」
「その靴下、似合うてんな」
「せやろ!」
来年小学生になるいつきは3代目となった淡路島土産のコアラ靴下を誇らしげに見せ、前歯の抜けた口元でニカと笑う。
 彼も数ヶ月後に生まれる妹の予行演習とばかりに従兄弟いとこを慈しんでくれていた。
「……したらシューカ、ヒカル、帰んで」
「うん、」
 こうして車崎一家は守谷もりや家を後にした。



「…ねぇ、電飾変えた?」
「うん、色だけな。もうちょいヒカルが大きなったらヘッドレストの後ろにタブレット付けてアニメとか観れるようにしたるよ」
「…シンタローさん、『子供に車の名前は付けへんかってんな』って、母さんとミラちゃんが言うてたよ」
「うーん…男の子っぽい車名が今ひとつ無かってんな…キラキラすぎんのも可哀想やろ?それにうちは名字に『くるま』付いてんねんから…お腹いっぱいやろ」
「まぁね」
 初めてのデートから数えると丸5年…今では睦じい夫婦となった秋花と晋太郎は、生後3ヶ月の愛息子・ひかるを連れて車崎の実家へと走る。
「ミズモリに顔出して、俺連休貰うてるから今夜はうちで泊まりな、オカンがご馳走作ってくれてるわ」
「おー、楽しみ…でも夜泣きとか迷惑かけへんかな?」
「んー…二重窓やし大丈夫やろ…普段から近所も付き合いは密にしてるから…苦情付けて来るようなケチな人はおらん…と思うわ」
 ゆくゆくは彼の実家に入る日が来るかもしれない、秋花は義両親だけでなく周囲の住民を含めた環境も気にしていた。
「ならええか………ふー……シンタローさん、寂しかった?」
「寂しかったよ…昼間にちょっとしか会えへんねんもん…休みに行ってもヒカル寝てて反応無かったりしたしやぁ、お義母さんたちいてるからシューカにも触れへんし…」
 産後の肥立ちが悪かったのと会社が立て込んでいたせいで里帰りは同市内なのに多めの3ヶ月。臨月から数えて4ヶ月間を独りで過ごした車崎は、数周してもその寂しさが振り切れていなかった。
「浮気とかしてへん?」
「阿呆、するかいな………………え、AVでオナニーはノーカンやろ?」
「ノーカン」
「セーフ……なに、ぼちぼち相手してくれんの?」
「うん…ちょっとならね」
 妻が優しい声色で応えれば、夫は細い目を見開いて嬉しそうに笑う。
「マジか……ほな寄り道や、ゴム買わな」
「明日でもええやん、自宅に戻る時」
「それもそうか…」
「ストックは?」
「ちょうど切らしてんねん……いや、あの…オナニーにな、使うてん…」
 自慰行為にスキンを消費するということは器具を使用したということか、秋花は事態を飲み込むと
「オナホールにゴム使うたんか…ふふっ…エッチやのに真面目、」
と明け透けに夫を褒めそやした。
「いや、繰り返し使いたいし…いや、うん、せやろ、真面目な仕事人よ」
「うん……そういうとこも愛してる、シンタローさん」

 信号待ちで軽く振り向いた車崎の骨張った頬を息子にするようにつんつんと突つけば、
「評価ポイントがおかしないか?」
と夫は前を向き直し間抜けな顔でミラーを覗く。

 正面の信号が青に変わり車列が進み始めて、秋花が
「安全運転で頼んます」
としっとり伝えると、夫は
「もちろんよ、シューカ♡」
とコアラの様に愛らしく笑った。



おしまい
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