君は、裸の王子さま—イタズラ御曹司は気弱な幼馴染みが欲しくてたまらない!

茜琉ぴーたん

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 そして、ゴールデンウィーク最終日。
「じゃあね、土日とかでも暇があれば帰って来なよね」
「うん、心平くんもまた来てね。卒論頑張って」
 最寄駅まで送ってもらい、心平は神奈川へと帰った。直線距離ではそこまで無いものの、交通機関に頼るとなかなか時間が掛かるものだ。
「(微妙な遠距離…でも、電話できるしいつでも繋がってはいられるし…)」
 会えない期間はそうして気持ちを繋いで来れたが、いざ体の物理的な繋がりを持ってしまうと次の逢瀬が待ち遠しくて仕方ない。
「(僕はこんなに、エッチな人間だったのか…帰ったら思い出して、ひとりでシよう…)」
 純朴でノンセクシャルな人生だと思っていたのに、恋人が出来ればこうも変わる。
 ワガママ坊ちゃんに弄られていたのに、その坊ちゃんを組み伏せて何度も鳴かせた。上に立ったと錯覚する、尊大な態度になってしまう。
 そうならないように気を引き締めねば、と思うも悠里の艶姿がフラッシュバックして熱がぶり返す。
「(あれで合ってた?正解?…すんごい、カッコつけちゃった気がする…悠里くん、内心笑ってたりしてない?柄に無いことしちゃった、悠里くんが好きな僕でいられたかな…)」
 悠里は気弱で人の良い心平が好きで、自分はその好みに沿えていたのだろうか。資料などからタチのキャラクターを学んで参考にしたものの、フィクションチックというか気障きざではなかったろうか。
 電車に揺られながら、心平は振る舞いを思い出して羞恥に赤面する。
 まぁ人格は成長に伴い変わっていくものだが、変化した先が悠里の好みとは限らない。
「(僕らしく…自然体で…?)」
 もしも悠里との衝突無しにカップルになり強制的にタチをやらされていたら、どうだっただろう。ぴえぴえ泣きながら悠里を抱いたのか、それ以前に勃たなかったか。ネコならされるがままに開発されて慣らされて…でも、そんな関係を楽しめはしなかったと心平は想像する。
 無抵抗な心平を好き勝手に抱いても、悠里は途中で虚しさを感じたはずだ。そして「もっと僕を欲してよ!」などと爆発しただろう。
「(僕らはあのケンカで成長したんだ。今の関係がベスト、だよね)」

 心平は家に着くと、親に土産を渡して「悠里くん、元気だったよ」と伝えておいた。
 そしてあとひと月後に迫った就活本戦開始に向けて、改めて企業研究などしてみるのだった。



 一方、心平を送り出した後の悠里は。
 とぼとぼと自宅へと帰っていた。
「さみしい」
ベッドには心平の残り香、きゅうと胸が切なくなって涙が滲む。
「(抱いてもらった…嬉しい、恋人だ…心平くんのものになれた…心平くんは僕のもの、お互い、自分のもの……あー…)」
 悠里からすると、心平のキャラ変に関しては大きな問題ではなかった。頼もしくてカッコいいと思ったし、リードされれば濡れた。
 お互い初めてだったから不慣れなのもお互いさまで、無責任な虚勢ではないのだからあたふたする様子も自然だった。
 家庭教師の時に慌てる心平はたらふく見せてもらったし、その罪滅ぼしもさせてもらいたいと考えていた。
 多くを説明せずともタチとして覚悟を決めて準備してくれていたのも嬉しかったし、悠里をネコにすることを決定事項にしてくれていたことも潔くて良かった。口喧嘩をすれば心平は丸め込まれるだろうし、でも「悠里は抱かれる」を崩さなかったのがリーダーっぽくてそそった。
「(心平くんのことだから、『今度は僕がネコね』とか言い出すかと思ってた…それも楽しいかもしれないけど)」
 リードはしつつ、でも悠里の辛そうな表情で萎えるという根の気弱さは治っておらず。気遣いながらも攻めの姿勢は捨てずにいてくれた、悠里はその控えめな雄々しさが堪らなく刺さった。
「(酷く怒られたことも無くて、暴力も振るわれたことも無くて。僕の慣れてないことを補完してくれた、そういうところもツボなのかも…)」
 浅い人生経験に深みをくれた、若輩者が人に陶酔するには充分な理由と衝撃だった。
 知らないことを教えてくれた、そんな陳腐な動機でも、悠里が心平にどっぷり浸かる理屈として成立する。
「(全部、好き…はー、女じゃあるまいし、なんだよ、このドキドキ…)」


 悠里はこの夜、これまで忌避していた女性が好むコンテンツに手を出した。動画サイトで『うP主うぷぬしオススメの胸キュン片想い少女漫画』の解説を聴き、試しに電子書籍にて買ってみたのだ。
「…なんっだよコレ…クッソ、女のくせに…!」
 好きな男子との触れ合いにキュンキュンする心理、ライバルにヤキモキする心理、男子と結ばれて幸福感に溺れる心理…悠里はそのほとんどが共感できてしまった。
 あれほど嫌悪していた世の女性はこんなものをバイブルにして脳内お花畑で生きていやがる、なんて冷静な自分と裏腹に、読後の悠里の目には涙が浮かんでいた。
「ムカつく…良作…」
 悠里は自分のことを女性的とは思っておらず、それは実際そうなのである。
 だから少女漫画で感動できる自分を疑い、しかし次第にそれ自体に何の問題も無いと気付く。彼は"恋する気持ちに男女の差は無い"ことを知ったのだ。
「しっかし…女って皆こんなん読んでんの?トレーニング読本じゃん…恋愛の英才教育だよ、男は敵わないって」
 世の中の女性が戦闘民族ばりに恋愛感覚を叩き込まれていると思い込み、そら恐ろしくなる。少年漫画しか読まなかった悠里には、新鮮な感覚だった。そして、結構少女漫画が気に入った。
「男同士…だともうBLかゴリゴリのゲイ本になっちゃうのか…それは共感性羞恥で読んでらんないな…」

 自分の状況と類似した作品なら読める、しばらく悠里は生意気年下幼馴染み系の少女漫画ばかりを読んではキュンキュンして夜な夜な鼻をすするのだった。

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