胸に手を置かれたら、朋也くんのことしか考えられないじゃん。ー無気力系後輩がグイグイ来るのは想定外でしたー

茜琉ぴーたん

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6…胸を張る

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「美紀さん、どうですか」

隣の試着室から、朋也くんが尋ねる。

 彼は元カノに会ってしまい、どんな気持ちなんだろう。

 ちょっとでも「キレイだな」とか思っただろうか。

 「惜しいことしたな」とか悔やんだりしてないだろうか。


「着たよ…見て、」

 カーテンをシャッと開けると、靴まで合わせた朋也くんがビシッと立って待っていた。

「…キレイっすね」

「ありがとう…朋也くんも、カッコいいよ」

 朋也くんは軽く整髪料でセットしてもらい、私もショートヘアなりのスタイルにしてもらった。

 式に向けて髪を伸ばす人もいるが、自分の好きな長さをアレンジするのが今風だそうだ。

 編んだり盛ったりしなくても、ティアラを載せたり緩く巻くだけでも充分サマになる。

 私も今の長さをキープしていくつもりなので、するとすれば花を差したりするくらいの飾り付けになりそうだ。

「良い感じっすね」

「そうだね…」

 澤條さんと比べてどうなの、美しさも相対評価だと思うが朋也くん的にどうなの。

 家に帰ってから聞いてみようかな、整えてもらった私たちは衣装室からラウンジへと向かった。


 ガーデンやチャペルに行くと澤條さんたちと鉢合わせするだろうか。

 私たちが撮影している間に彼女たちが帰っていれば良いのだが…おそらく無理だろう。

 澤條さんはきっとロケーションにもこだわって撮影をしているに違いない。

 だとしたら、私たちと同じかそれよりも遅く衣装室へ戻って来ることになるだろう。

 そうしたらまたかち合って、嫌な感じで絡まれるかもしれない。

 私は我慢できるが、彼女の姿を朋也くんに見せたくないというか…私より綺麗な澤條さんを彼に見て欲しくない。

 これはあくまで私の主観だけど、花嫁として若くてスタイルが良くて華のある澤條さんに、私は勝てる気がしないのだ。


「ここが良いです」

披露宴会場のイメージでと言っていたが、そこに向かうまでの吹き抜けの廊下が明るくて綺麗だったのでそこで足を止めた。

 プランナーさんは「でも」と慌てていたが、お試し撮影だし雰囲気が良かったので是非にとお願いして撮ってもらった。


「おキレイですよ」

 お褒めの言葉は有り難いけど、さっさと帰りたい気分の方が大きい。

 澤條さんたちと会いたくない、早く衣装室でこのドレスを脱いで、同じ土俵から降りたい。

 スマートフォンで数枚撮ってもらって、私は朋也くんより大股で来た道を戻った。 
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