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2月
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しおりを挟む全国展開の家電量販店・ムラタ、兵庫県皇路市の本店での話。
2月。
大々的な人事異動で管理職の入れ替わりが数件あり、パソコンコーナーのフロア長に数少ない女性管理職が就任した。
彼女の名は小笠原奈々、34歳。
172センチの長身にグラマラスな体型、堂々たる風格はモデルか女優の様である。
上品だが気の強そうな眉毛と圧倒的な目力のおかげで、彼女の本来の気性よりだいぶん恐い人間だと思われがちで損をする事もあるそうだ。
彼女を含む新任の歓迎会を取り仕切ったのは本店のレクリエーション大臣でもある白物の松井で、上旬に馴染みの鍋屋にて和やかに執り行われた。
松井旭は勤続8年目の33歳、他業種に数年在籍してからの転職組である。
人当たりが良いし商品知識はピカイチ、しかし上に立ちたくないとコーナー長への昇進話は蹴ったという過去もあった。
時期によってブームが変わるのか髪型にはばらつきがある。
最近はひと昔前に流行ったビジュアル系バンドマンのような、センター分けにして左右に垂らした前髪を小指でサラと掻き分ける仕草をよく見せる。
のっぺりとしているが大きな一重の目、高めの矢印鼻でメリハリがあってまぁまぁの美男であった。
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「松井くん、先月の売上実績1位だったでしょ。オールラウンダーって聞いたけどPCは?」
「出来ますよ、1年は在籍しました」
本日の主役・奈々に尋ねられ、ビールを注ぎながら松井は飄々と答える。
家電量販店においての部門、白・黒・PC・DC…ひとつの部門に特化したスタッフも珍重されるが、全ての部門を網羅した「オールラウンダー」は特に重用されるものだ。
松井はまさに本店を代表するそれで、記憶力だけではない要領の良さなのか、何を担当させても覚えも呑み込みも早い。
スペックを重視するデジタル家電から調理家電の使い勝手まで、新製品が出てもすぐに把握して売り上げを稼ぐのだ。
「へぇ、1年でそれか…さすがね…じゃあうちに欲しいって店長に言ってみようかな、それとも生活家電の方が好き?」
「なんでもいいですよ、がっつり接客のパソコンも、回転の速い生活家電も…まぁ白物の方が飽きなくて楽しいですね」
「そうなんだ、うちのコーナーが困ってたら助けてね、」
奈々は美味そうにビールを喉へ流し、ケラケラと美しい顔を崩して笑う。
今夜の奈々の送迎も松井が頼まれており、彼女は気兼ね無くアルコールをぐびぐびと進めていた。
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