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1・アカデミック ラブ
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しおりを挟む「すみません、いきなり告白はやり過ぎました。でも、多香子さんのこと、本当に…こうしてお断りされたことも含めて、もっと好きになりました」
「…断ったのも?」
はてどうしたことか、自販機横のベンチが空いたので腰掛けて聞いてみることにした。
「…私、一般的に高学歴でしょう、見た目もそこそこだし実家は裕福ですし…その、打算的な女性からの声掛けが多いんです」
「あー、まぁね」
「私を欲しがろうとするギラギラした目つき、媚び、甘ったるい誘い…私、あぁいう女性仕草が大嫌いなんです」
好き嫌いの主張がしっかり出来るのだな、ふむふむと相槌を打つ。
「それでも恋愛はしてみたくて、顔の広い友人に頼んで…オープンキャンパスに研究展示をされてたでしょう、私、あれでお名前を見たのが最初なんです。単純に面白い研究課題だなと感心して、お話を聞いてみたいなと思って。同行していたその友人が多香子さんのゼミのご学友と交際してまして、そのツテでコンパに多香子さんを呼んでもらったんです」
「あ、そうなんだ…あのコンパは出来レースだったんだ」
確かに同じゼミの友人に誘われての参加だったっけ、仕組まれた出逢いに複雑な思いがした。まるで動物のお見合いみたい、楽しいコンパの裏で策略が動いていたのだと知るとガッカリしてしまう。
「いえ、あくまで紹介ですから…あの日、来校者向けのワークショップに多香子さんも参加されてたでしょう、そこでの所作も好みで。その時はその方が多香子さんだとは知らなかったんです。でもコンパで『あのワークショップの方だ!』と。多香子さんのお姿を見て、お名前を聞いて…湧いた興味関心と好みの女性が合致したんです、これは運命ですよ。そういう訳で私は多香子さんが気に入ってしまって、こうしてデートにも来て頂いて」
「ちょっと落ち着こうか…キーホルダーも、友人の差し金?」
「…実は、そうです。レポート作成で買いに行けそうにないと聞いて…コンパの次の日に行って来ました」
なるほど、ピンポイントで私の欲しい物を引き当てるなんて奇跡だものな。趣向を知っているからこそ集められたのか。
しかし自然発生の恋愛ならともかく、外堀を埋められて経過をウォッチされている感じが気に食わない。
「そっか…そんで、私を釣るために大金を注ぎ込んだ訳ね…さすがお金持ち、勿体無いことするね。ダブったやつはどうしたの?捨てた?」
やさぐれ感いっぱいに尋ねると、翔はふるふると首を横に振る。
「いえ、私もバイトと仕送りでカツカツでしたので…まず8個買って、足りないものを交換して下さる方を探して交渉しました」
「…SNSとかで?」
「あ、その手がありましたか…私、売店横で張り込みました」
「…効率的じゃないでしょ、何日掛かるの」
あ、この人賢い馬鹿だ、呆気に取られて口が半開きになる。
限定とはいえ、価格を理由に諦めた者がここにも居るというのに…あれを買って帰る人に逐一声掛けをしたのだろうか。
訝しげな目で見上げていると、翔は「へへ」と眉尻を下げる。
「3日くらい掛かりました。最終日には店員さんも手伝ってくれて、揃った時は皆さん万歳して下さいましたよ。全種が均等な数入っていたので成し得たことですね。中に数の少ないレアがあればもっと難しかったと思います」
「…バカなの?」
「え、私がですか?」
恐らくそんな言われようをしたことが無いのだろう、翔は芯から驚いた様子で目を剥く。
幼い頃から賢くて褒められてばかりだったろう、頑張って集めた貢ぎ物を捧げてまで罵倒されるなんて思いもしなかったろう。
「…付き合えるかどうかも分からない女に、なんでそこまでするの?バカじゃん…しかも、デートの約束取り付ける前でしょ?バカじゃん!」
「えっと…しかし、竹取物語でも求婚するために貴族が珍しい宝物を」
「私はかぐや姫じゃない!バカ、なん、もうっ…」
プロポーズ方法を古典から引用する人がいるなんて、言葉が継げなくなる。
賢いくせに馬鹿、どうしてよく知りもしない私にそこまでの労力を掛けたのか。フラれたらどうするのか、そもそもデートを断られていたらどうしたのか。
「落ち着いて下さい、すみません、経験が足りず…おかしいことをしました」
「…行動力は認める、でもさぁ、んー…」
「私、これといって趣味とか無いんですけど、多香子さんの喜ぶ顔を想像してキーホルダーを買った時、すごく楽しかったんです。コンパで多香子さんのお話を聞いてる時も、連絡先を頂けた時も。こんな気持ちになることが無くて…舞い上がってしまいました」
「…うん、分かるけどさぁ」
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