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2・秀才ワンコ
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しおりを挟むある日のデートで、私は翔に今後のことを突き付けてみることにした。
行き先は植物園、梅雨入りしたので外はじめじめ温かい。
「バナナの葉っぱ、大きいですね」
熱帯を再現した温室で、翔は緑の葉を興味深そうに見上げる。
ここは外と負けず劣らずの湿度だ。
「お皿にしたり、包んで蒸したりも出来るみたいだね」
「なるほど…よくご存知で…さすが多香子さん」
褒められて、何とも言えずはにかむ。
これくらいのこと、きっと翔も知っているはずなのに、必ず私に花を持たせてくれる。トークを上手く回しているつもりだろうか、もっとマイナーな情報を言ってやれば良かったと後悔する。
「…翔くん、手、繋がなくて良いの?」
唐突に提案してみれば、翔は慌てて大きな手を開き「待った」を掛ける。
「そういうのは」
「繋ぎたいって、翔くんが言ったんだよね?」
「そ、うなんですけど」
「キスもしたいって、言ったよねぇ?」
バナナを背にした翔に、ずいずいと詰め寄る。
交際を申し込んだのは翔なのだから、アクションはそちらから起こすべきでは。
「ん~?」と覗き込んだ顔は真っ赤で、唇がほわほわ揺れていた。
「私に飽きちゃった?」
「ち、違いますっ、私、言ってはみたものの、勇気が無くて…で、出来れば、多香子さんの方からして頂けたらと」
「ん?なんで?翔くんが告白したんだよね?一目惚れしたんだよね?」
詰めれば詰めるだけ綻ぶ頬、やはりマゾっぽい。
「(あ、そうか)」
翔がマゾならば、自分からグイグイ攻めるのは解釈違いなのだろう。告白こそ頑張ってしたものの、そこからの発展は私に任せたいように見える。
さて、この人を悦ばせるには何が正解なのか。翔の希望通りに私から手を繋いでやるのか、また"お手"をしてやるか。それとも「手を取りなさい」と命じてやるのか、「どうしたいの」と言葉で詰めるか。
「(相手が何で喜ぶかを考える、本質は違えどもこれが愛…?)」
湿気で肌がベタついてきたので、とりあえず温室から離れたい。
そして移動するという理由があれば繋ぎやすい…私は翔の白くて細い手首を捕まえ
「行くよ」
と引いてやった。
「は、はい…」
私は前を歩くので彼の顔は見えない。けれど彼の長い脚とリーチを持ってしても私を追い抜かないところを見ると、"従えられる"ことに甘んじているのだろうと思った。
虐げられるのではなく従えられるのが好き、そういえば本人も言っていた気がする。
「…翔くんは、私に命令されたい?」
「横暴なのは好ましくないです、多香子さんの品位が下がる気がしますし…私は従いますけど」
「上位に立たれたいんだ?」
「どちらかと言うと、下に居たい、というか…従順な自分でいることが好ましいというか」
雲行きが怪しいなぁ、温室から一般展示館に戻りロビーのベンチに腰掛ける。ダウンライトが数か所あるだけの薄暗さ、ここからは敢えて光量を落として夜に映える樹木や花を展示してある。
「翔くんのお家って、複雑なの?」
「いえ、円満だと思いますが…どうしてですか?」
もう手首は離してあげているのだが、彼のそれは私の指に吸い付いて離れない。寂しんぼうなのかとも思った。
「失礼だけど家族に蔑ろにされてたから、その癖で人に縋っちゃうのかなーとか」
「…いえ、両親からは惜しみない愛情を受けたと思ってます。4人兄弟の次男ですが、兄とも弟たちとも関係は良いです。食うに困ったことも無いですし…あくまで、私個人の性癖ですかね、辞書的に正しい意味での、」
「ふむ」
近年多用されている性的な方にも当てはまるけどね、とは言わなかった。
手首を握り直してあげれば翔はうっとりと、愛らしく口を噤む。
「兄弟とごっこ遊びとかしてた?遠慮して子分役をしてたとか」
「……いえ、年功序列で、相応しい位置を貰えていたと思いますね」
「そっか…まぁ、刷り込まれた性質って訳でもないのか」
「そうですね、私はどちらかと言えば温室育ちのボンボンですよ。苦労知らずです」
それを自分で言うのは、鈍いのか鋭い自虐なのか。
今度は私が閉口すると、
「よく言われるんですよ」
とニッコリ笑って見せた。
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