愛の議論は長々と—あなたには理屈じゃ敵わない—

茜琉ぴーたん

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6・かかあ天下とからっ風

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 さて、私たちがセックスを解禁した翌日。
「…信じられない、翔くんの行動力」
「群馬と栃木は土地続き~♪」
 私は翔と、どうしてか私の実家を訪ねている。
 ホテルで目覚めて寝不足の中、誘導されるままに電車に乗せられたら我が故郷・宇都宮方面へと向かっていた。
 いや、群馬から離れて埼玉に突入した時点で、怪しさは匂っていた。それでもデートプランを考えてくれたのかなとウトウトしていたら乗り換えさせられ…よく寝てスッキリしたと思ったら、宇都宮に到着していた。
 翔は、私の実家を目指しているのだ。
「休みだから親も家に居るってさ…」
「仕事着で申し訳ないですね、でも急ぎの方が良いですから」
「あの、変なことは言わないで欲しいんだけど」
 彼は、私の親に結婚の挨拶をしようとしている。急にどうしてかって、私とセックスをしてしまったからだ。しかも最初に避妊せず挿れてしまったから、僅かにでも妊娠の可能性があるから責任を取らねばとのことだ。
 翔の計画では、然るべき時期に段取りを踏んで籍を入れてから初夜を行いたかったらしい。それを私がワガママ暴走で頓挫させてしまったがために、挨拶を強行しようというのだ。
「変なこととは?」
「えっと、その、」
「私の計画的に守っていた童貞を、無計画に多香子さんに奪われたことでしょうか?」
「それだよ、そういうこと…いい大人が恥ずかしい」
 翔はゴキゲンに、私の手を握ってタクシーに乗り込む。
 実家は中心部から車で20分ほどかかる。私は運転手さんに詳しい住所を伝え、開き直って寝直してやった。

 ちなみに昨夜の予定では、まず耳鼻科受診をしようという話になっていたが、私がオンライン診療の登録をしていたのを思い出して明け方にネットで受診した。提携医師の指名も可能なので、翔は友人の耳鼻科医に連絡を取り「待機してて下さい」と依頼、正式な手順を持って診療して頂いた。
 見立てでは急性副鼻腔炎、「こんなになるまでに病院に行かなきゃ」と有り難い言葉も頂けた。
 ホテルから一番近い処方箋薬局で薬を貰えるように手続きを取り、今朝早くに受け取って早速飲んでいる。頓服とんぷくも飲んだので頭痛も楽になり、しかし副作用で眠気に拍車が掛かり。その足で「では駅に」と連れて来られた訳だ。

 約20分後、懐かしい実家へとタクシーは到着…玄関の外には両親が立って待ってくれていた。
「お初にお目にかかります。熊倉翔と申します。多香子さんとは結婚を前提にお付き合いさせて頂いておりまして、この度、籍を入れるご挨拶に参りました。なにぶん緊急でしたもので、軽装で申し訳ございません」
翔はピシッとお辞儀して、朗らかに笑う。
 母も父も呆気に取られて、とりあえず中にとリビングへ入れてくれた。

「改めまして、熊倉です。多香子さんとは4年以上のお付き合いになります。私も多香子さんも社会人になりましたし、元々が結婚を前提とした交際でしたので頃合いかと存じます。入籍に異議はございますでしょうか」
「翔くん、捲し立てないで。お父さん、お母さん、急に来てごめんね…」
 両親はポカンとして、しかし異議など申し立てる余地は無かった。翔はスマートフォンで資産状況を説明し始め、ここ数ヶ月の給与の推移のグラフだとか預金額と資産運用の詳細だとか、とにかく安定をアピールしたのだ。そして職に関しても事細かに話し、ゆくゆくは私を熊学園に呼び寄せて研究者として重用したいことも熱弁してくれた。
「多香子さんの大学院時代の論文、お読みになられましたか?博士課程の際の、あれで、あの成果で多香子さんは評価を受けて飛び級を認められたんです。研究畑は結果が必ずしも付いて来るものではありませんからね、あるか分からない不確定なものを追い求めるのは難しいですよ、あるものを探す方が簡単です。しかし多香子さんはやり遂げた、今はさらに発展させて理学や医学にも役立つ研究をしてらっしゃいます。将来的には世界的な賞を獲ってもおかしくないと思っています!」
「落ち着いてー」
「本人の努力もありながら、ご両親のご協力があってこその学生生活でした。多香子さんを進学させて下さって、ありがとうございます。ご両親への恩返しは、これからは私も共に担って参ります!」
「翔、お座り」
身を乗り出して喋る翔に、私はついつい命令をしてしまった。
「はいっ」
 嬉々としてダイニングチェアに腰を下ろす翔の様子を、親は驚いて眺める。身の丈190センチの大男が犬のように操られている、私たちの関係性をいぶかしんでいても不思議ない。
「…あの、翔くんはこういう人で…私を凄い持ち上げてくれるの。出逢った時から…ずっと、こんな感じで…最初は変な人だなって思って、今も思ってるんだけど…良い人なの」
「え、今も思ってるんですか?」
「翔、ステイ」
「はい」
「お父さん、お母さん…私も色々と思うところはあるんだけど、この先生きていく中で翔くん以上に私を愛してくれる人って現れないと思うから…」
 彼氏がいることは親に伝えていたので、「適齢期だしね」と親は反対もしないでくれた。もう大人だし仕事もしているし、好きにしなさいと認めてもらった。
 ただ、うちの親は割とラフなので気にしないと言われたが、「熊倉家の皆さんの前で旦那さんを犬扱いしちゃダメよ」と母から苦言は頂いた。する訳ない、とも言い切れず…「まぁ良いようにするよ」と返した。
 ともかく口約束だが婚約のていを取り、今後の話をまた詰めていこうということでお茶をしてお暇することにした。
 翔は最後までずっと私の褒め言葉を親に話し続けていて、印象は悪くなかったようだ。圧倒されて返す言葉も無かった、という線もあるが、どちらにしても私の意志を尊重してくれて有り難かった。
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