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7・思う仲に口さすな
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しおりを挟む研究畑は男性ばかりで、出逢い自体は多い。
様々な分野の話を聞くのは楽しいし、自分の研究に傾聴してもらえるのも嬉しい。けれどその中にキュンとくる男性がいたかと言えば、いなかった。恋人の有無や配偶者の有無に限らず、「この人と恋愛してみたい」と想像できる男性はいなかった。
単に私が恋愛をする段階になかったということもある。それらが答えなのだろう、私が翔と恋を出来たのは。
私はそもそも恋愛に関心が薄かった、少なくとも自発的に何かしようと言えるほどには強くなかった。その隙間に上手く入ってくれたのが翔だった、要は彼が一番乗りをしてくれたから恋になったのだ。
もちろん私が激しく拒めば破局していただろうに、そうはならなかった。出逢いは運、順番、そしてタイミングだ。科学的なことが好きな私だけど、これはボンヤリしたもので納得できる。
どうしてなんて考えるだけ勿体無い、好きになったら理屈は後から探すしかない。ごにょごにょと濁していた私だが、それらを理解できるように成長したのだ。
コンパに私がチョイスされたのも運、仕組まれてはいたが翔は一目惚れ相手を呼んでくれと友人に頼んだ訳ではない。研究に興味を持って、というところがスタートだった。
翔より先に私にアプローチを掛ける男性がいたら、その人と交際していたかもしれない。でも今となっては意味が無い、翔からの愛情を上回るそれを浴びせて来れる人がいるなら…是非に見せて欲しいものだ。
そしてその上で、私に一番に辿り着いた翔を優勝させてあげたい。
「(結婚したから、優勝~)」
「どうかしました?そんなニコニコして」
初夜、翔は私の膝の上から私を見上げ尋ねる。
私は茂木にキッパリ言ってくれた褒美に、彼を甘やかしているところだ。
パジャマで眼鏡を外し、ベッドにて膝枕のサービスを施され幸せそうにしている。さすがに朝から着付けに挙式にパーティーにと疲れたのか、意外や翔は体を求めては来なかった。新婚初夜だからと燃えるのかと思いきや、だ。
もっとも、入籍はしばらく前に済ませているので厳密には初夜でもないのだが。
「ん、私への愛を説いてくれた翔くんが、カッコ良かったなって、思い出し笑いしてたとこ」
「茂木さんを傷付けてしまったでしょうか…頭に来ていたとはいえ、言い過ぎたかなと」
「んー…でもあの子も私を傷付けることを意図的に繰り出してたし…証人は沢山いるし、いざとなったら戦うよ」
やはり喧嘩は慣れていないのか、翔も精神をすり減らしたらしい。ただ、茂木が私を攻撃したから熱くなっただけで、こちらは応戦しただけだ。
私たちの学友の中には士業に就いた者も多いので、その時が来ればガチガチに固めたオールスターで臨む所存だ…ここまでは翔には言わないが。
「…私、多香子さんのためなら戦います。強くなります」
「ありがとう、私も翔くんのために強くなるよ」
癖の強い髪の毛を撫でると、翔は満足そうに目を閉じる。
大学3年生の頃はもっと色白で頼りなく感じていた。変態的思考だし強引だし得体が知れなくて引くこともあった。今だって、体長190センチの大男が膝と背中を曲げて妻に膝枕してもらう姿に…ちょっとは引いている。
でも嫌いじゃないんだよなぁ、私が彼と共にある理由はそれに尽きる。
「私、実は、今日のパーティーで多香子さんが私に助けを求めて下さったこと、嬉しかったんですよ」
「そうなの?まぁ、私に関することは許せるけど、翔くんもどうしても絡んでくるからね」
「多香子さん、事実でも図星を突かれても、意地悪で指摘されたら怒って良いんですよ。私は、自分のことよりも多香子さんを悪く言われる方が辛いですから」
「…うん、分かった。自分も大切にする…翔くんも、自分を大切にして欲しい。好きなことを見つけて、ほら、趣味が無いっていつも言ってるから」
「私の趣味は多香子さんですよ」
「言うと思った」
朝から今までの出来事や思ったことを、まったり振り返っては話し合う。「あの時こう思った」「あれはこう感じた」、お互いの思考と視点を共有して理解度を深めていく。
「でも本当…家業だから継ぐとしか思ってなかったのが、目的が出来たんです。それは多香子さんに出逢えたからで…有り難いんですよ、働くモチベーションというのは。じきに私は理事に入ります。そうして理学部の研究施設を多香子さんの研究に合うように調整していきます」
「公私混同はダメだよ」
「まぁ即時ではないです、多香子さんが准教授になって…当学園に利がある人材だと認められなければ…予算は降りないでしょうから…」
「うん、ゆくゆくは教授になるから、翔くんは学長とかになってね」
告白時から一貫していた翔の未来の展望、ビジョンやスタンスが変わっても彼の夢はブレていない。トップに立つよりも人を支えたいと言っていた翔を、私は天辺に押し上げてやりたいと思っている。
「は…いぃ…」
いつしか翔は私の膝の上で寝息を立て始め、その頭の重量がズンと脚に沈んだ。
「…おやすみ、翔くん」
ゆっくり脚から降ろすと、夢でも見ているのか翔がふにゃふにゃ笑う。
「(…可愛いひと)」
真面目な時と欲情した時の差、人間として当たり前の情緒の揺れも興味を唆る。きっと翔も、私のそれを確かめてはデータとして収集し、学習している。
普通ならすれ違いもしなかった全くの他人が、こうして隣り合って眠る奇跡。学んでも学んでも、関心が尽きない。明日からの生活に湧き上がる希望と多幸感。
「(…結婚、凄く良い…具体的に語ると長くなるからやめとくけど)」
理屈よりも感情を優先できる柔軟性を会得した私は、愛する夫の横で目を閉じる。
明日からは新婚旅行だ、近場だけど二人で沢山の知らないことを知って帰って来たい。楽しいことも淋しいことも、彼と共に経験したい。
「(…しあわせ)」
夫の寝息を子守唄に、スヤァと眠りに落ちる。
この日見る夢はおそらく、根拠も無いし裏付けも取れないけれど、あくまで希望でしかないけれど…きっと、大好きな翔の夢に違いない。
つづく
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