壮年賢者のひととき

茜琉ぴーたん

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10月・勇者はあどけない

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 シャワーを終えて脱衣所で買ったばかりの下着を履き、パジャマに袖を通す。フードとカンガルーポケット付きのトレーナータイプで、裏が起毛になっていて暖かい。共布のズボンは思ったより丈が長く、裾を3回巻いて足首が見えるようにした。
 陽菜子はぼんやりと考える。今夜何かされるだろうか、下着は見られたし、以前耳もかじられた。
 バックハグ、クビにキスもされたし…
「あー!」
そこで陽菜子は重大なことに気付いて思わず声を上げる。
 すると同時に
「ヒナちゃん⁉︎どうした⁉︎」
と、廊下側から嘉島の声がしてドアが開いた。
「ひゃあ!いえ、大丈夫です!…な、なんでそこに居るんですか」
 嘉島はパジャマ姿の陽菜子を見て安心した様子でため息を吐き、弁解する。
「ごめ、違うよ、音を聞いてたとかそんなんじゃなくて。酔ったまま風呂は危ないから…張ってただけで。何でもないならいいよ………びっくりした…あ!何か居た?ゴキとか」
「いえ、違くて…あの、」
「うん…?」
何が来ても動けるように、嘉島は目線を陽菜子の足元へ逸らした。
「…わ、私たち、まだキスも、まともにハグもしてないことに今更気付いちゃって…」 
「はァ?」
「首、とか、耳とか…はされたし、ぱんつまで見られたけど…」
無防備な姿を見られた恥ずかしさもあり、風呂のせいではない赤みを帯びた顔でもじもじと両手指を擦る。
「あー、あァ、ごめん。順序が違ったな…ちょっと…入るよ、」
 そう言うと嘉島はポリポリと頭を掻き、脱衣所の中まで進んでぎゅうと陽菜子を抱き締める…まだ湯気の上がる体は温かく心地よかった。
「至福」
「…安心します」
「うん、いいね」
「ヒナちゃん、キスは…経験は?」
「ん~、子供の時はノーカンですか?5歳」
「ノーカン」
「じゃあ、健一さんが初めてです」
 にぱっと、陽菜子が初めて見せるすっぴんで笑えば、嘉島が見下ろしながらその口元を手で引き寄せる。
「目、つむってくれるとしやすいな」
「!」
すぐに陽菜子はパチリと目を閉じ、嘉島は顔を傾けて、口先だけの軽いキスをした。
 これだけで耳まで真っ赤になるのだ、先が思いやられる。
「ヒナちゃん、今日はここまでだ。この先は…できれば揃って休みの日に…時間をかけて」
嘉島は彼女の頭をポンポンとしながら提案を持ちかけた。
「は、い、ええ、」
「…わかるかな?君がすぐに結婚したいっていうならやぶさかでないけど…そうでないなら、そういう心配が無い時にちゃんとシよう」
「あ……わかりました…お気遣いありがとうございます…ちなみに今日は安全日ってやつです」
「…エ……そういう言葉使うの…?」
まさかの俗っぽいワードに嘉島は耳を疑った。
「ユイちゃんが、こういう事は人任せにせず、自分で管理しなさいって。えっといい日、安全日、だめな日、きけん」
「アー、もう、また笠置かさぎか、あの阿婆擦あばずれは!うちの子になんて言葉を………」
いつになく鼻から抜ける声で、嘉島は頭を抱え発狂する。
「まァ、…言葉はともかく、俺は正直把握できないから、君の覚悟ができて、君が良い時にシよう。君から誘ってくれる分には構わない…断らないから。その代わり、俺から誘っても、だめな日は絶対に断ってくれ。少しでも君が不安な時はシたくないから」
「…わかりました」
「もう支度できたよね?俺もシャワーするわ…テレビとかつけてていいからね」
「はーい」
 濡れた髪をタオルで巻き、陽菜子はひとりリビングへ戻った。

 しばらくして脱衣所から嘉島が出てくると、陽菜子はテレビ台の太陽系に釘付けになっていた。
「あがったよ…そんなに気になる?」
嘉島は冷蔵庫からミネラルウォーターを出してボトルにそのまま口をつける。
「キレイですね…地球と月がめっちゃ回ってて可愛いです…」
「そう…その隣の青いやつ、台のスイッチ入れてご覧よ」
 陽菜子は言われたスイッチを探して電源を入れると、中の照明が点いてカラフルな星座の絵が浮かび上がった。
「わぁ!神話の…やつ」
「ヒナちゃんは何座?」
「牡羊座です」
「なら、分かり易い。大きい角の羊の絵がそうだ…」
男は目の下のくすみが一層濃く、くったりとソファーに腰掛ける。
 陽菜子はくるくると回し眺め、スイッチを切ると再び太陽系模型に顔を向けた。
「あ」
何かに気付いた陽菜子はテレビ台の奥に手を伸ばし、つつーと埃を集めた。
 そしてそれをお掃除ロボの充電台の近くへ落として仕事をさせる。
「へへ…」
「……ヒナちゃん、楽しいかい?」
「はい」
「そう、」
 嘉島は満足げに微笑み、そして仰け反ったまま
「ヒナ、おいで」
と両腕を広げた。
「……」
陽菜子は神妙な顔をして振り返る。
 キス以上の事はしないとは言われたが、また尻を見られたりすれば身がもたないと思ったのだ。
「あァ、何もしない。ハグだけ、させて」
 その警戒に気付き言葉を付け足すと、
「ん、」
今度こそ、陽菜子は対面で膝に跨がった。
 柔らかい感触、自分と同じシャンプーの香り、見上げればあどけなく可愛い笑顔。
 彼女は優しく嘉島の頭を抱く…前髪を下ろし仕事中よりも少し若く見える嘉島の顔は新鮮で愛らしく感じた。
「今の警戒心はいいね……ん、ヒナちゃんからはキスしてくれない?」
「あ、します………ぁ」
初めての自分からのキスチャレンジ、陽菜子から顔を近づけるとそのまま鼻同士がぶつかった。
「…むずいですね」
「ふふ、こうだよ」
 顔を傾けてもう一度、嘉島から口付けをレクチャーすると、目を閉じ遅れた陽菜子は、瞬きもせず見開いたまま照れて固まってしまう。
「はい、もう1回」
 促された陽菜子は両手で嘉島のフェイスラインに触りそっと唇にキスをする。これは成功だっただろう。
 もう頭から蒸気でも出そうな表情をして、口を離しハグの体勢に戻った。
「あァ、いい気分だなァ」
「……はい」
 少し余裕の出たヒナコが嘉島の耳の辺りに頬ずりをするので、彼は気になっている事をついに切り出す。
「あのさァ……ヒナちゃん、さっきからすごい当たってるんだけど、下着つけてる?上の」
「あ、寝る時はつけてなくて…タンクトップだけです」
 ちなみに陽菜子はCカップ、お手頃な大きさである。
「うん、いろいろと試練を与えるね…とりあえず…んー………もう寝ようか」
「はーい」

 寝室に入り並んでベッドに横になり、今夜は掛け布団と毛布を重ねて使うことにした。
「わぁ、ダブルベッドですか。私、寝相悪いけど大丈夫でしょうか」
「……落ちなければいいね。今度、掛け布団を買い足すよ」
「嬉しい…彼女っぽーい♡」
「彼女だよ。………ヒナちゃん、」
嘉島は布団の中で擦り寄り、服の上から陽菜子の胸に顔を埋める。
「あ…♡」
「ごめん、オジサンこれは触れとかないと眠れない」
「んっ♡」
「あー、至福。明日も頑張れる」
 陽菜子は嘉島の頭を抱きよしよしと撫でる…ドキドキしているはずなのに、いやらしさより慈しむ心の方が勝るのは母性によるものなのだろうか。
「おやすみ、ヒナちゃん」
「おやすみなさい♡」
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