壮年賢者のひととき

茜琉ぴーたん

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10月・勇者はあどけない

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 翌朝。
 嘉島は陽菜子の抱き枕となって目を覚ました。
 樹木の枝分かれの様に、仰向けの嘉島の腰を蟹挟かにばさみにして陽菜子が斜めに生える。夜中に蹴られた様な衝撃を感じたから、その時からだったのだろう。
「寝相が悪いって、こういうのか…動けん…ヒナちゃん、脚動かすよー…」
 尋ねても寝息しか聞こえないし、心地良い太ももの圧が脇腹にかかる。そのすぐ下には男性の朝の生理現象が陽菜子に触れたそうに待ち構えていた。
「あァ…ヒナちゃん…ヤバいィ…ごめん!」
嘉島はたぎる自身を隠すべく力任せに陽菜子の脚を引き剥がす。
 ベッドから降りて床にへたり込むと、突発的な運動にゼェゼェと息が乱れた。
「危なかった…この歳で暴発とか…」
 陽菜子はまだ起きる気配がなく、無邪気な寝顔が可愛い。
 嘉島はもう一度静かにベッドへ上がり、彼女から離れてうつ伏せで二度寝に入る。

 この1時間後、大きく振りかぶった陽菜子のかかとに腰を強打されることを、嘉島はまだ知らない。



 朝10時。
 鈍器で人を殴ったような音で陽菜子は目覚める…音の発生源は自分の左脚なのだが。
「がっ!?あ、…イっでェ……な…に…?ヒナちゃ…」
「ぃやぁ‼︎ごめんなさい!健一さん、しっかり!」
「いい…揺らさないで…ほんと寝相悪い、な…アー、」

 嘉島は5分ほど自分で腰をさすってやっとヨタヨタと起き上がり、
「すみません…」
と、リビングへ向かう彼の後をしょんぼりしながら陽菜子がついて行く。
「いいよ…目が覚めた…イテェ…朝ごはん、適当に食べてていいよ…」
薬箱から湿布を数枚出して、嘉島は渋い顔でダイニングテーブルに並べた。
「あ、私、貼ります…」
「じゃあお願い…」
ダイニングのイスにかけ、パジャマをまくり上げて腰を見せる。
「あ、青くなりかけてる…」
「…あァ…家庭内暴力だなァ…」
 アワアワとする陽菜子に嘉島は追い討ちをかければ、
「…」
振り返ると彼女は口を開けたまま涙ぐんでいた。
「う…嘘だよ!いいよ、事故だ、こんなのは!ヒナちゃん、泣くな!」
「ごめんなさい…」
「だから事故だっ」
「私、これで骨折させた事あるんです…」
「は」
「隣に寝てた親戚の子…腕だったんですけど…」
 嘉島は青ざめ、ははは、と力なく笑う。打ち所によっては、自分もそうなっていたかもしれないのだ。
「とりあえず、貼って…」
「ぐす…はい」

 腰に湿布を3枚は貼ってもらい、朝ごはんの準備をする。
 陽菜子は普段一人暮らしだし、料理はまあまあ得意らしい。
 嘉島はテーブルにヨーグルト・ボトルコーヒー・牛乳・ジャムなど一通り出して自由に選ばせた。
「昨日の制服の、中・高一貫の寮生活で。食堂のご飯も美味しいですけど、母からレシピ貰って自炊もしました。んで、実家は県北のど田舎なもんで、そのままこっちで就職しちゃいました」
「早くから親元離れて…親御さんも寂しかっただろう」
「ちょくちょく遊びに来てくれましたし、電話もメールもしてますし」
「ん…待って、親御さんはおいくつ……?」
ヨーグルトを食べる手を止め、嘉島が尋ねる。
「父は48、母は44です」
「おふ…同世代……俺、大丈夫かなァ?殴られない?」
「そんな激しい親ではないですよ、結構ゆるい感じで。いつか、うちにも遊びに来てください。彼氏ができたことは言ってあるので」
「ん……よし、わかった…」

 嘉島は来るべき日の事を想像して、胃がキュッとなった。
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