壮年賢者のひととき

あかね

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2月・勇者は大切ない

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 翌朝。

「おはよう、ヒナちゃん……ほら、だから言ったじゃない」

「おはようございます…」

新素材のマットレスも陽菜子の寝相は治せなかった、彼女は床へ転がり落ちて嘉島の目を覚まさせた。

「目覚まし時計じゃないんだから…体を大切にしなさいよ」

「無意識なんですもん…痛……健さん、まだ時間あるので、そっち入ってもいいですか?」

「ん、いいよ…おいで」

 大きくて暖かいベッドに陽菜子は入れてもらい、満足げに夫へ頬擦りをしてその身を寄せる。

「ふふ…いいですね、夫婦♡」

「うん…離したくないなァ」

「いずれまた、同じお店で働きましょうね…制服の健さん、好きなんです」

キスをして、見つめ合って、またキスをして、蜜月関係の二人は愛を交わして仕事へのエネルギーを溜め込んだ。

「ん…俺も制服のヒナちゃん好きだよ」

「それ、学生服の方でしょ」

「バレた…ははは」

 これからまだまだやることは山積み、とりあえずは仕事を安定させてから休みを取って挨拶や結婚式や旅行の準備…想像するだけで初老の体には堪える。


「健康には気を付けていきましょうね」

「うん、長生きしたい」

「はい、長生きさせます♡」

 どこからそんな自信が生まれてくるのか、枯れかけていた男を蘇らせたこの子は天使か女神か。

 嘉島は悟りを捨ててガムシャラに陽菜子を愛そうと決めた。


「ヒナちゃんは…チャレンジングというか…思い切りがいいよなァ」

「はい、末っ子ですけど、割となんでもさせてもらえたし…一度きりの人生ですからね、なんでもやってみないと」

「若いのに達観してるんだよなァ…人生2周目とかじゃないよね?ふふっ」

「まだまだ未熟者ですよ、ふふ」


 互いの腰に手をかけて見つめ合い、ずっとこうしていたいと思えるほどに崇高な時間を二人は過ごす。

「…ヒナちゃん、愛してる」

「嬉しいです♡私も愛してます、ずっと好きですよ、ふふ…言ったじゃないですか、『私は離れるつもりはありません』って。付き合い始めた時に。私を幸せにして下さいね♡」

「荷が重いな…ふふ、時間がかかりそうだなァ」


 責任感は男を強くする、大切な一生仕事いっしょうしごとに嘉島は任せろとばかりに微笑んだ。



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