壮年賢者のひととき

あかね

文字の大きさ
上 下
75 / 81
エピローグ・賢者は大人気ない

70

しおりを挟む

「ッッあ、…っはァ、んッ……、」

会話など無い、室内にはBGMと吐息混じりの喘ぎ声だけが響き、男は眼下の女の反応など気にもかけず腰を打ち付ける。

 男の名は嘉島かしま健一けんいち、家電量販店・ムラタの某店舗で黒物フロア長兼チーフフロア長を務める41歳。

 彼は交際して2年になる恋人との久々のデートで、それなりに激しいセックスに励んでいた。

「あ、んッ…は…あー、イく、イくッ……あ、あー…」

後背位で女の腰を引き寄せ、どくどくとスキン越しに情欲を吐き出したらスッと引き抜く。


 ティッシュに濡れたスキンと、渇いた喉に溜まった痰を包んでゴミ箱に投げ捨て、横たわる女の頭をガシガシと撫でた。

「健一…疲れてる?忙しいんでしょ」

「大丈夫だよ…気にすんな…」

まだまだ煙草に寛容な年代、嘉島はベッドサイドの灰皿を近くへ寄せて事後の一服を嗜む。

「そっか…ならいいの…」

「ふゥー」

 先程まで繋がっていた恋人を邪険に扱ってしまうのは賢者タイムのせいだけではない。

 最近の嘉島は日頃からピリついてギラギラしているのだ。


 働き盛りの男盛り、中途採用だったので周りの同職よりは遅めだがチーフフロア長への昇進は自分をたかめるいい材料になった。

 この先は副店長、そして店長、もっと大きい店舗へ、格上の大都市の店舗へ、野望が広がる。

「健一、年末さ…クリスマスとか…会えそう?」

「んー…分かんねェ…セール準備とかあるし…また連絡するわ」

私生活もなんとなく順調、県を跨いだ遠距離だがたまにこうしてデートする恋人はいるし、ゆくゆくは彼女と結婚でもするのだろう。

 嘉島はぼんやりと甘い未来予想図を描いていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,487pt お気に入り:1,465

夏の終わりに、きみを見失って

BL / 連載中 24h.ポイント:340pt お気に入り:3

だって、コンプレックスなんですっ!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:255pt お気に入り:852

【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

BL / 完結 24h.ポイント:901pt お気に入り:976

俺が、恋人だから

BL / 完結 24h.ポイント:1,107pt お気に入り:26

処理中です...