壮年賢者のひととき

あかね

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おまけ

賢者はレベルが上がった・前編

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「ごめんねェ…なかなか満足させてあげられなくて」

俺はひとり達した後で、妻に詫びる。


 もう、俺は壮年ではなく中年だ。

 もっとも、区切りだけで言えば結婚当初から既に中年だったようだが。

 辞書によると、壮年とは働き盛りの血気盛んな年頃のことらしい。

 実年齢はともかく、仕事をバリバリできていればそうだと思っていたが…体はどんどんと衰えている。


「気にせんで」

妻は、微笑んで俺の胸に頬を寄せる。

 26も若い妻だが、いつしか敬語は抜けてタメ口になった。

 お国訛りも強くなってきて、昔のか弱いイメージとは変わっている。

 双子育児でタフになったのだ、むしろ勲章みたいなものだ。


「持久力が落ちるよね…」

「弱音ばっかり吐かんの。充分気持ち良いから大丈夫」

「コンスタントにイかせてたのになァ」

「過去の栄光に縋らんのよ」

 初体験から妻をずっと満足というか先にイかせていたのに、確率がだんだんと下がってきた。

 そこに持って行くまでの助走で、俺の方が先に達してしまうのだ。

 何たる無力感…妻は励ましてくれるが、本当はどうなのか。

「…アラカンの夫なんて…恥ずかしくない?」

「何よ今さら。健さんはシュッとしててカッコいいよ、昔と変わんない」

「ヒナちゃんはやっと30だろ、あのさァ、もし」

「『俺より良い人がいたら乗り換えて良いから』って言うんでしょ。しつこい、何度も言わせんでよ」

「ハイ」


 分かっている、妻は絶対に「健さんが良い」と言ってくれる。

 でも心身の衰えを強く感じる近年、俺が先立った時のことを考えてしまうのだ。

 不動産も遺せるから、生活には困らないと思う。

 しかしまだ子供が成人してなかったら、共に暮らすパートナーの存在が必要なのではないか。

 何歳になっても、妻はきっと可愛い。

 だから同じようなバツイチ男性と再婚して、俺が買ったこの家で第二の人生を歩むことだって…あるかもしれない。
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