壮年賢者のひととき

あかね

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おまけ

賢者はレベルが上がった・後編

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「…健さん、もしかして今、自分が死んだ時のこと考えとる?」

「あ、ウン」

「もー、長生きしよって、いつも言っとるが」

「…更年期かな、あはは」

 内臓も血管も元気だ。

 でも何が起こるか分からない。

 大切なものが増えると、悩みも増えるから人生は難しい。


 ぼうっと天井を眺めていると、妻は口をひん曲げて

「じゃあ、健さんが死んだら若いイケメンと再婚してこの家で楽しく暮らすわ」

と俺の予想を代弁した。

「えェ…嫌だなァ」

「でしょ、だから弱音なんて吐かんとって」

「デモ」

「早めにマッチングアプリ入れようかな」

「ちょっ…やめて、嫌だ」

 わたわたと妻のスマートフォンを取り上げる、振動でロック画面が明る。

 愛しい我が子たちと俺の写真だ。

「する訳ないって…まだ先のことは考えんで良いから」

「ん…ごめん」


 それから妻は男性の更年期症状について調べてくれて、お試し用の漢方薬を注文してくれた。

「親父は割と早逝だったからね、俺もかなって気にはなってるんだよ」

「お義母さんは元気でしょ。お義母さん似かも」

「あっはっは…そうか、そうかもねェ」

 いくつまで生きられるか分からないけど、なるべく長く君と一緒に居たい。


「言ったでしょ、最初に。健さんが100歳まで生きてくれたら、私たち50年連れ添えるって」

「ふは」

 妻のポジティブシンキングに、俺は再び吹き出す。

 できる限り叶えてあげたいねェ、俺はそれっきり老いに関する弱音は吐かなかった。



おわり
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