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2章…気の合う相手
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しおりを挟む食後。
「おエっ…ゴべェ……ぉえェ…」
屋敷の端の客間に据え付けられたトイレは手入れが行き届いていて助かった。
部屋に下がってすぐに私はそのトイレで夕食を吐き戻した。
無理をして食べ過ぎた、ここまでする必要は無かったと思うが和臣さんに気に入られるためには有効な手段だったので頑張ってしまったのだ。
明日も朝食からモリモリ食べて見せねばならないしデートも食事がメインだから腹を空かせておかねばならない。
かといって太るわけにもいかず運動も追い付くまい…食べたものを戻すのが手っ取り早く確実な腹ごなし法だ。
「ふぅ…」
嘔吐はそこそこ慣れている。
しかし吐き戻すという本来の流れに逆らう行為は体力も精神力も著しく消費するし身を削るデトックス、感情ではなく生理的な防御機能が働き涙が出る。
涙につられて鼻水も垂れるから化粧も崩れる、以降人に会わない時間にしかできない。
「煮物…美味しかったのにな…もったいない」
鼻を噛んで化粧を落として入浴の準備にかかる。
私は『お袋の味』なんて知らないけれど奥さまの料理はなんとなく皆がイメージする立派なそれで味わい深かった。
しかし、確かにお近付きになる予定ではあったが奥さまにここまで信頼されるのは正直都合が悪い。
なんせ私はこの先和臣さんと体の関係は持っても嫁ぐ気は無いのだ。
ご家族からは「秘書として」の信頼だけで事足りるのに…嫁候補として可愛がられると後々裏切ることによる罪悪感みたいなものが湧いてしまう。
「デートはしたけど家庭に入る女じゃなかった、って感じかな」
誰もが初めての恋人と一生添い遂げるなんてのは夢物語だろう。
伸夫先生と奥さまはそうだったのだろうが該当しない人の方が世の中きっと多い。
交際はしたけれど結婚までは進まなかった、そして和臣さんにはお見合いをセッティング、とそう進めていくことになるだろう。
私は裏でこっそり和臣さんの夜伽相手を続けるだけ、そうして仕事に精を出してもらえればミッションコンプリートだ。
つづく
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