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15章…まるで人間

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「和臣さん、私、冷たい人間なんでしょうか」

子供たちを寝かし付けて「今夜は泊まる」と言う和臣さんと久しぶりに並んで横になったベッドで、私はぽつりそんなことを漏らした。

「どうした」

「あの方が…ひぃ様が亡くなったと聞いても…あまり心が動かなかったんです…あんなに良くして頂いたのに」

「…それは……良い思い出ばかりではないから…じゃないのか?」

「そうなんでしょうか……お世話になった人の死をいたむことができないなんて…人としてどうなんでしょう」


 もしかしたら数日経ってずぅんと喪失感にさいなまれるのかもしれない。

 お線香をあげにあのマンションを訪ねたくなるのかもしれない。

 けれどぼんやりと、まるで名前しか知らない著名人が亡くなったニュースを聴いているような気分だった。

 多感な時期を共に暮らし、別居後も常に頭に付きまとった存在だというのに現実味が無い。


「聖良、前は『人間ではない』なんて言っていたのが嘘みたいだな、心が動かないからといって悲しむなんて…君はまるで人間だよ」

「おかしいですね」

「おかしくない、君は血の通った人間だ。僕の妻だ、子供たちの母親だ…ひとりの立派な人間だよ」

「……和臣さん…何か、できることは…ご遺族などはいらっしゃるのでしょうか?」

「養女になった人が喪主をすると言っていた。弔問ちょうもんは自由だと言うが…立場的にな、よした方が良いというような口ぶりだった」

 そうかひぃ様の家は元々反社会的組織、地位のある者が訪れて関係を疑われてはこちらの全てがパァになる。

 ならば香典なども贈れないか、裏社会への献金だなんだと騒がれては面倒だし和臣さんに迷惑がかかってしまう。

「何も…恩返しもできませんのね…」

「こういうものは気持ちだよ、代理人の連絡先は聞いているから…聖良が望むなら他の方がどうしているか聞いてみるよ」

「はい…」


 私は結局、和臣さんを通してひぃ様の代理人に取り次いでもらい、心ばかりのお悔やみをお渡ししたいと申し出た。

 そして独身時代の貯金から数万円包み、足がつくと不味いとのことで人を雇ってかつて暮らしたマンションのポストへと投函してもらった。
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