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2006…家無し少女
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しおりを挟む翌朝。
まともに寝られるはずもなかったので俺は普段より早めに起床して、台所でお袋へ挨拶すればまだ港さんは起きていなかった。
「起こしてみてくれる?とりあえず一緒に食べましょう、仕事はどうするのか知らないけど荷下ろしもあるし栄養つけなきゃ…検査薬、買って帰るわね」
「…お袋は、もし港さんが妊娠してたら産んだ方が良いと思う?」
「……命を無駄にするのは良くない。でも……自分だったらどうかしらね、ともかく考える気力を付けるためにも食べなきゃ」
「うん…呼んでみるわ」
トントンと敢えて大きめの足音を立てて階段を上がる。
俺が声を掛ける前に目を覚ましてくれれば驚かせないで済むと思ったのだ。
しかし部屋の前に立ってノックをしてみれば、
「ひゃいっ‼︎」
とひどく怯えた声が返ってきた。
「港さん?朝だ、憶えてるか?ムラタの津久井だ」
「わか、分かってます、お世話になりました、あ、あの、」
「どうした…あ、とりあえずの着替えなら姉ちゃんのがあるから探してみようか」
「着替え、も、なんですけど、あの、あの、ごめんなさい!」
「……港さん?」
切羽詰まった様子は扉を隔ててたって明らかで、せっかくよく眠れたろうにまた泣き声が混じる。
俺に相談したことは憶えているし泊まったことも憶えている、今さらすっぴんを隠すようなこともあるまいが冷静になって恥ずかしくなったのだろうか。
「あの、ごめんなさい、」
「なに、怒らないから…ゆっくり教えて」
「あの、汚し…あの、お、お母さぁん‼︎」
一際大きな叫びは階段下に待機していたお袋の耳にすぐ届いた。
ドタドタ駆け上がって俺を押し退けた母は「港さん、開けてちょうだい」と穏やかに諭す。
「お母さん、ごめんなさい、あの、あの、」
「説明しなきゃ分からないわ。ここ開けて?浩史はあっち行ってな」
そうか男の俺がいるとまずいことなのか。
なんとなく分かるようで分からない俺はゲーム部屋へと退避して押入れの引き戸を微量ずつ開けた。
何が起こってるか分からないが着替えは必要だろう。
泥棒のように忍びつつ姉の夏服を探す。
隣の部屋からはひんひん港さんの泣き声と宥めるお袋の声、そしてベッドをひっくり返すような大きな物音もする。
「(その辺、エロ本とかあるからやめて欲しいなー…)」
まさか俺のお宝を見てしまって錯乱してるのではあるまい。
この歳になって親からガチ説教は勘弁なのだがなんとなく背筋を伸ばしてお袋からの指示を待った。
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