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2010…母親学級バトル
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しおりを挟む今回は産前準備や暮らし方についてと、産気づいた時の連絡方法や困った時の相談先なんかの説明を資料に沿って聴いた。
うちはもう経験しているが初めての者にとっては不安だろう。
しかし美晴をチラと見ればまるで初見のリアクションで「へぇ~」と頷いていて俺も不安になった。
後半は座談会だ。
「発言は自由に」とのことなので各自気になることを質問したり体験談を語ったりと控えめガールズトークみたいな空気になってくる。
とはいえ、2組だけなので湯本さんと美晴しか話し手はいない。
看護師さんは『妊婦の悩みあるある』を話してこちらの意見を引き出そうとした。
「旦那が家事を手伝ってくれなくて」なんてのもあるあるだろう。
世の中の夫の立場を一身に背負い気まずい俺は、さらに椅子を下げて自ら蚊帳の外感を醸す。
「津久井さんの旦那さまはどうですか?家事の困りごととかは?」
目敏い看護師さんが俺に話を振る。
世のパパさんの為には俺が悪者になった方が良かったのかもしれないが
「え、そうっすね、任せっきりになってますけど、いつもキレイにしてくれてますよ」
と美晴の頑張りを推しておいた。
実際に部屋は綺麗だし美晴は掃除は得意だし、極力物を増やさない生活をすることで最低限の労力で済むように取り組んでいる。
なので料理にも比較的時間の余裕を持って臨んでもらえる。
出来合いでも市販のルウものでも腹が満たせれば何だって良い。
「津久井さん、褒めてもらって良かったわね」
「えへへ」
また謙遜を忘れた美晴は助産師さんに笑顔を返し、こんなことで上機嫌になるならばいくらだって褒めてやるさと胸を撫で下ろす。
しかし美晴の向こうの湯本さんはボソッと
「当たり前のことで喜んじゃって」
と俺にか美晴にか悪態をついた。
どうやら俺もあからさまな見下し対象に入ったようだ。
少しイメチェンしたところで根のモサさは払拭出来なかったらしい。
湯本さんは人前だということを忘れたのか、段々と増長する。
「お腹が大きくたって、身だしなみをきちんとして、栄養バランスの取れた食事を用意して、旦那さまを仕事に送り出すのは妻として当然のことですよねぇ」
「そうですね、でも後期悪阻が出る人もいますからね、無理をしない方が良いですよ」
「ファストファッションでダサい格好なんて私は絶対嫌だわぁ、そんなのでペアルックとかどんな罰ゲームって思っちゃう」
「湯本さん?」
進行を務める看護師さんも困り顔で、明らかに俺たちを指した悪口が突如始まり目を白黒させて口籠った。
今日の美晴は軽めのニットとゴムウエストのスカート、俺は同じニットのメンズサイズをお揃いの色でチノパンに合わせて着ている。
つまりは王道ペアルック、湯本さんは俺たちの服装を批判している訳だ。
前回の母親学級で料理が苦手という話題を提供していたのだろうか。
美晴はもじもじ恥ずかしそうに「はぁ」と指を擦り合わせる。
見た目はともかくウィークポイントを突かれた美晴は俺への申し訳なさで縮こまってしまった。
これはいけないねぇ、おろおろする看護師さんにアイコンタクトで発言権を主張して、
「化粧品の匂いで体調を崩したりする人もいるでしょう、うちのもその気があったから簡単にさせてます。料理も出来る範囲のことをしてくれてますよ、俺も大人なんで支度もひとりで出来ますしね、何も問題はありません」
と言い含めるように伝える。
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