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2022…ヒーローと奥さま(最終章)
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しおりを挟むそして提供してしまった美晴は「え」と困り顔で、自分のせいで俺が叱られていると目に見えてあわあわし出した。
しかし田仲の後ろに女性客がひとり並べばばちんと表情を切り替える。
「対応に入るので退けて下さい」と俺たちにアイコンタクトを送る。
今の時間カフェは美晴ひとりで回しているのか、仕事が出来るようになったもんだ。
嫁の成長をひしひし感じつつも田仲に
「お客さまがいらっしゃるから離れよう」
と引き寄せるジェスチャーをした。
すると途端
「いぃやぁああ‼︎」
響き渡ったババアの奇声、「触らないでぇ‼︎」とさも俺が奴の体に触れたかのように自身を抱いてその場に蹲りやがる。
通路から集まる野次馬、キョトンとする美晴と並んだ女性客、仲裁を頼もうにも俺はトランシーバーを外しており初動が遅れた。
「今、私に触ったわぁ!いやらしい!」
「静かにしなさい、」
「いやぁ、触らないでぇ‼︎」
「(誰が好んで触るか、クソババアが…)」
触るなと言っている以上俺は近付けもしない。
美晴がカウンターから出て来て立ち上がらせようとするも細い腕では小太り田仲は持ち上がらなかった。
どうしたもんかな、何がどうしてこんなに爆発したのか分からない。
美晴を虐めたいからってこんなに執着するだろうか。
業務上の不満があるなら俺ではなく直属の上司に訴えるべきだろうし…もしくは虫の居所が悪くタイミング良く俺を見つけただけか。
「触らないでよ、何よ、整形女!」
「やめなさい、田仲さん!顔は関係ないだろ」
「あたしだって、若い時は美人だったんだからね!」
「あーそう、」
更年期か仮想敵と闘っているのか、田仲はえらく妄想と思い込みに思考を占拠されているようだ。
ざわざわと周りに客も集まり出してしかし手の付けようがなく、ギャアギャア妄言を吐く田仲をただ見つめるという不毛な時間が流れる。
「(どうしたもんかな)」
「だいたいねぇ、あんたみたいに、」
唾を飛ばしながら発狂する田仲と宥める美晴、カフェに並んでいた女性客は時折振りかぶろうとする田仲の腕を抑えて美晴を守ってくれていた。
「大した苦労もなしにチヤホヤされて、ろくに仕事も出来ない***のくせにさ!」
「はい、はい、」
「どんなに顔を作ったって分かるんだ、心根は変わらないんだよ、」
「そうですね、落ち着いて」
美晴の顔に怨みがあるのだろうか。
やけにぐじぐじと可愛い嫁をこき下ろすのでいい加減腹が立ってきた。
俺においては美晴が二重だろうがぽっちゃりだろうがどうあれ可愛い嫁に変わりないのだ。
確かに美人で第一印象が記憶に残ったのは認めるが俺の『可愛い』評価は『世間的に見て高水準な美人』を指している訳ではない。
明るくて素直で何事にも一生懸命で頑張り屋な美晴が好みなんだ。
そしてこんなチンケな俺を好きだと言ってくれるから割り増しで愛してるんだ。
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