負けないふたり、勝てないふたり〜最強剣士の弱いとこ〜

茜琉ぴーたん

文字の大きさ
3 / 27
1・負けず嫌いのめぐとめぐ

3

しおりを挟む

「萌、くっついて良い?」
周は、セックスに誘いたい時にこうした物言いをする。
 最初はただだだ寝転んできつくハグをされる。キスをして、段々と息が荒くなって、胸に触れ、腰に手が降りて来て…ここで私が拒めば、くっつくだけで終わる。
 拒まれて気まずい思いをしたくないから、曖昧な誘いにすることで保険をかけているのかもしれない。
 具体的な中身に関しては、"淡白"のひと言で済んでしまう。ムラムラしていやらしい気持ちになって、盛り上がって…と思ったら終わってしまう。
 ぞんざいに扱われるでもなく、むしろ優しい。例えば腫れ物に触れるような、私を試しているようにも感じる。
 私に嫌われたくなくてOKとNGの境を探っているのか、にしては調査期間が長過ぎる。かれこれ7年ほど致しているのだから、気兼ね無く言って欲しいのだが。そして私も嫌なことを我慢する質ではないので、よほどのことであれば遠慮無く「嫌だ」と伝える。
 周は賢くて勉強熱心なので、セックスだってコツを掴んで上達しそうなものなのだが。それとも私にそれを発揮する価値が無いのだろうか、もしくは効率的な運動でエネルギー消費を抑えているとか。

 私も不勉強だったが、フィクションの世界だと男女が共に同時に果てるような終わりがいわゆる"フィニッシュ"なのだと思っている。同時に、は作り物ゆえの事情とも分かってはいる。
 セックスで昇天できる女性は男性より圧倒的に少ないと聞いたし、余程のテクニシャンでなければ難しいのだろう。反対に男性は比較的簡単というか、摩擦による快感を得やすいものだと…失礼ながらそう伺っている。

 繋がっている間はキスだってする、じわじわと私の快感が沸いて吹きこぼれそうになったら彼は果ててしまう。ベッドに入ってから服を着るまで、時間にしてみれば正味30分も経っていないと思う。そうか早漏なのだろうか、体質ならば仕方がないが…物足りない。
 話は合うし性格は合うし、長い付き合いで恐らく結婚もする。
 だから懸念は少しでも消しておきたいよね…ということで、今夜私は斬り込んでみることにした。


「ねぇ、私で満足してる?」
私の家でのイチャイチャタイムに、そう水を差す。
 明日は休日、楽しいお泊まりの夜である。
「…してる、不満とか無いよ」
「…ふーん、なら失礼を承知で言うけどさ、私は、周とスるの、もっと…こう、濃ゆいのも良いかなって、思ってて、」
具体的なのは察して欲しい、擦れた女のようにクールぶってみる。
 例えばドロドロに汗をかいたり、互いに噛み跡を残したり…サラッとではなくベタベタと粘着質なセックスをしてみたい。執着や劣情をぶつけられてみたい、もし周にそんな感情があるならば。
「…僕は淡白ってこと?」
「正直ね。時間的にも?だし?」
「短い?…萌が良い感じだから、割とすぐにイっちゃうんだよね」
「それはありがと。じゃあさ、それを長持ちさせるとか、努力してみない?」
「…男にそういうこと言う?」
周は唇を私の胸から離し、不機嫌そうに髪を掻き上げる。
 短時間でも濃厚な行為は出来るのだし、早いのはこの際良い。しかし私の物言いは男のプライドを踏み付けてしまったようだ。
「いや、サプリメントとかさ、」
「ご心配なく、独りでスる分には長持ちしてるから」
「え、それって、私だと長持ちしないってこと?」
「…仕方ないじゃん、萌のナカが良いってことなんだし」
「んー…でもさ、なんかもっと、こう…」
 はしたないのは百も承知だ。物足りないとハッキリ言われて周は傷付いていることだろう。それでも、積年のモヤモヤを解消できたらなと、こちらも恥を忍んで伝えているのだ。

 先日、周の一番上のお兄さんが結婚するという話が舞い込んだ。お嫁さんになる人は私たちと同い年らしく、そうなると私も結婚を身近なものに感じて意識してしまった。
 重なった状態で難しい顔の私に、周はため息をついて体を起こす。
「萌とこういう話、したことなかったね」
「うん、エッチなことは…あんまり興味無いのかなって」
私も体を起こし、もし彼が逃げそうなら食い止めようと脚を立てる。
「あるよ、男だし」
「で、でも、周は、がっついてないじゃん、私に」
 上目遣いで窺う私に、
「本気、出して良いの?」
と周はキョトン顔を向けた。
「…え、これまでは手抜きだったの?」
「違う、常に本気。でも萌に無理させたくないから調べ調べって感じ」
「無理って…そんなに長丁場なの?」
「それだけじゃなくて…色々と、」
モゴモゴと、周は言葉を濁す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

6年分の遠回り~いまなら好きって言えるかも~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私の身体を揺らす彼を、下から見ていた。 まさかあの彼と、こんな関係になるなんて思いもしない。 今日は同期飲み会だった。 後輩のミスで行けたのは本当に最後。 飲み足りないという私に彼は付き合ってくれた。 彼とは入社当時、部署は違ったが同じ仕事に携わっていた。 きっとあの頃のわたしは、彼が好きだったんだと思う。 けれど仕事で負けたくないなんて私のちっぽけなプライドのせいで、その一線は越えられなかった。 でも、あれから変わった私なら……。 ****** 2021/05/29 公開 ****** 表紙 いもこは妹pixivID:11163077

私と彼の恋愛攻防戦

真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。 「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。 でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。 だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。 彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

初恋だったお兄様から好きだと言われ失恋した私の出会いがあるまでの日

クロユキ
恋愛
隣に住む私より一つ年上のお兄さんは、優しくて肩まで伸ばした金色の髪の毛を結ぶその姿は王子様のようで私には初恋の人でもあった。 いつも学園が休みの日には、お茶をしてお喋りをして…勉強を教えてくれるお兄さんから好きだと言われて信じられない私は泣きながら喜んだ…でもその好きは恋人の好きではなかった…… 誤字脱字がありますが、読んでもらえたら嬉しいです。 更新が不定期ですが、よろしくお願いします。

処理中です...