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1・負けず嫌いのめぐとめぐ
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しおりを挟む「萌、くっついて良い?」
周は、セックスに誘いたい時にこうした物言いをする。
最初はただだだ寝転んできつくハグをされる。キスをして、段々と息が荒くなって、胸に触れ、腰に手が降りて来て…ここで私が拒めば、くっつくだけで終わる。
拒まれて気まずい思いをしたくないから、曖昧な誘いにすることで保険をかけているのかもしれない。
具体的な中身に関しては、"淡白"のひと言で済んでしまう。ムラムラしていやらしい気持ちになって、盛り上がって…と思ったら終わってしまう。
ぞんざいに扱われるでもなく、むしろ優しい。例えば腫れ物に触れるような、私を試しているようにも感じる。
私に嫌われたくなくてOKとNGの境を探っているのか、にしては調査期間が長過ぎる。かれこれ7年ほど致しているのだから、気兼ね無く言って欲しいのだが。そして私も嫌なことを我慢する質ではないので、よほどのことであれば遠慮無く「嫌だ」と伝える。
周は賢くて勉強熱心なので、セックスだってコツを掴んで上達しそうなものなのだが。それとも私にそれを発揮する価値が無いのだろうか、もしくは効率的な運動でエネルギー消費を抑えているとか。
私も不勉強だったが、フィクションの世界だと男女が共に同時に果てるような終わりがいわゆる"フィニッシュ"なのだと思っている。同時に、は作り物ゆえの事情とも分かってはいる。
セックスで昇天できる女性は男性より圧倒的に少ないと聞いたし、余程のテクニシャンでなければ難しいのだろう。反対に男性は比較的簡単というか、摩擦による快感を得やすいものだと…失礼ながらそう伺っている。
繋がっている間はキスだってする、じわじわと私の快感が沸いて吹きこぼれそうになったら彼は果ててしまう。ベッドに入ってから服を着るまで、時間にしてみれば正味30分も経っていないと思う。そうか早漏なのだろうか、体質ならば仕方がないが…物足りない。
話は合うし性格は合うし、長い付き合いで恐らく結婚もする。
だから懸念は少しでも消しておきたいよね…ということで、今夜私は斬り込んでみることにした。
「ねぇ、私で満足してる?」
私の家でのイチャイチャタイムに、そう水を差す。
明日は休日、楽しいお泊まりの夜である。
「…してる、不満とか無いよ」
「…ふーん、なら失礼を承知で言うけどさ、私は、周とスるの、もっと…こう、濃ゆいのも良いかなって、思ってて、」
具体的なのは察して欲しい、擦れた女のようにクールぶってみる。
例えばドロドロに汗をかいたり、互いに噛み跡を残したり…サラッとではなくベタベタと粘着質なセックスをしてみたい。執着や劣情をぶつけられてみたい、もし周にそんな感情があるならば。
「…僕は淡白ってこと?」
「正直ね。時間的にも?だし?」
「短い?…萌が良い感じだから、割とすぐにイっちゃうんだよね」
「それはありがと。じゃあさ、それを長持ちさせるとか、努力してみない?」
「…男にそういうこと言う?」
周は唇を私の胸から離し、不機嫌そうに髪を掻き上げる。
短時間でも濃厚な行為は出来るのだし、早いのはこの際良い。しかし私の物言いは男のプライドを踏み付けてしまったようだ。
「いや、サプリメントとかさ、」
「ご心配なく、独りでスる分には長持ちしてるから」
「え、それって、私だと長持ちしないってこと?」
「…仕方ないじゃん、萌のナカが良いってことなんだし」
「んー…でもさ、なんかもっと、こう…」
端ないのは百も承知だ。物足りないとハッキリ言われて周は傷付いていることだろう。それでも、積年のモヤモヤを解消できたらなと、こちらも恥を忍んで伝えているのだ。
先日、周の一番上のお兄さんが結婚するという話が舞い込んだ。お嫁さんになる人は私たちと同い年らしく、そうなると私も結婚を身近なものに感じて意識してしまった。
重なった状態で難しい顔の私に、周はため息をついて体を起こす。
「萌とこういう話、したことなかったね」
「うん、エッチなことは…あんまり興味無いのかなって」
私も体を起こし、もし彼が逃げそうなら食い止めようと脚を立てる。
「あるよ、男だし」
「で、でも、周は、がっついてないじゃん、私に」
上目遣いで窺う私に、
「本気、出して良いの?」
と周はキョトン顔を向けた。
「…え、これまでは手抜きだったの?」
「違う、常に本気。でも萌に無理させたくないから調べ調べって感じ」
「無理って…そんなに長丁場なの?」
「それだけじゃなくて…色々と、」
モゴモゴと、周は言葉を濁す。
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