22 / 27
3・めぐはめぐに勝てない
22(最終話)
しおりを挟む数日後、吉日。
私たちは婚姻届を提出して、晴れて夫婦となった。苗字をどちらかにするかで少し喧嘩をしたが、勝負にて周の姓を名乗ることになった。
「…ムカつく、勝てる訳ないじゃん」
「萌はち◯ぽには勝てないもんね、すーぐイっちゃって可愛いったら」
「周が絶倫過ぎんのよ…本当に寝かせてくれないんだもん…」
人には聞かせられない話をしながら、食器の後片付けをする。
婚姻届に記入する夜、夫の姓にして当たり前と思っていた周と話し合いを持った。私としては自分の苗字にそれほどの愛着も無かったのだが、通例を破ることも大切だろうと主張してみたのだ。簡単に吸収されることへの細やかな抵抗、くらいの気持ちだった。
周は「ならば」と勝負を持ち掛けて、深く考えず応じたが運の尽き…「先にイった方の負けね」と押し倒され、初戦にて即敗退した。
そんな訳で私は彼の姓になり、いよいよ二人の姓名は似通ったものになってしまった。
職場にも剣道部にも報告し、祝福してもらえて嬉しかった。私の剣道着の前垂れも、新姓で発注しているところだ。
しかし学生の中には周にガチ恋していた子がいたようで、私にとんでもない憎悪の目を向けられたりもした。
要らぬヘイトを買ってしまいゲンナリするも、周は「その恨みを強さに換えてもらおうかな」と部内混合大会なるものを突貫で企画。全員参加のトーナメントで私はガチ恋子ちゃんを撃破し…講師としての面目を保つと共に周の妻としてのポジションを確固たるものにした。
ちなみに、順々決勝で私は周と当たったものの真剣な周に見惚れてすっ転んでしまい、ペチっと面を打たれて負けた。
「ん?再戦する?」
「もう入籍したでしょ、あと勝てないから」
「じゃあ、勝負抜きで…萌、いちゃいちゃしたい」
昔と変わらない誘い方に、体が熱くなる。
いそいそとタオルで手を拭いて、ふと明日の予定など思い出す。
「明日、部活でしょ?」
「午後からね。合同だから萌もでしょ」
「そうだけど…そうだから、早く寝たいっていうか」
「なんで、澄まして指導してる萌を見ながら『今朝方まで僕のち◯ぽで鳴いてたのにね』とか考えるの楽しいよ」
「それが嫌なのよ、ばか…それに、明日の夜だって…同じことするじゃない…」
「まーね」
「だから金曜の夜は寝ておきたいって……あの、周…話聞いて、」
こちらが敵わないと分かっているから卑怯だ。強引な仕草で、それすらも私の好物と熟知していてアプローチを掛けて来る。
「手合わせ願う…なんちゃって」
「ばか、オヤジ」
「僕の竹刀、強いよ」
「知ってる」
「強い男、好きでしょ?」
やり方はおかしいが概ね同意、
「好き」
と応えて目を閉じた。
周は私より強くて、それを自覚している。
でも全能ではない、それも重々承知しているのだとか。
私と重なりながら、周は
「どっちが勝ってんだかね」
と吐いて眉尻を下げる。
「周だよ、」と返す私の頭をがっちり掴み、抱きかかえ、
「敵わないんだ、マジで」
と呟き…彼は天を仰いで、ふにゃっと崩れるのだった。
おわり
1
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
6年分の遠回り~いまなら好きって言えるかも~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私の身体を揺らす彼を、下から見ていた。
まさかあの彼と、こんな関係になるなんて思いもしない。
今日は同期飲み会だった。
後輩のミスで行けたのは本当に最後。
飲み足りないという私に彼は付き合ってくれた。
彼とは入社当時、部署は違ったが同じ仕事に携わっていた。
きっとあの頃のわたしは、彼が好きだったんだと思う。
けれど仕事で負けたくないなんて私のちっぽけなプライドのせいで、その一線は越えられなかった。
でも、あれから変わった私なら……。
******
2021/05/29 公開
******
表紙 いもこは妹pixivID:11163077
私と彼の恋愛攻防戦
真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。
「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。
でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。
だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。
彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる