負けないふたり、勝てないふたり〜最強剣士の弱いとこ〜

茜琉ぴーたん

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3・めぐはめぐに勝てない

22(最終話)

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 数日後、吉日。
 私たちは婚姻届を提出して、晴れて夫婦となった。苗字をどちらかにするかで少し喧嘩をしたが、勝負にて周の姓を名乗ることになった。

「…ムカつく、勝てる訳ないじゃん」
「萌はち◯ぽには勝てないもんね、すーぐイっちゃって可愛いったら」
「周が絶倫過ぎんのよ…本当に寝かせてくれないんだもん…」
人には聞かせられない話をしながら、食器の後片付けをする。

 婚姻届に記入する夜、夫の姓にして当たり前と思っていた周と話し合いを持った。私としては自分の苗字にそれほどの愛着も無かったのだが、通例を破ることも大切だろうと主張してみたのだ。簡単に吸収されることへの細やかな抵抗、くらいの気持ちだった。
 周は「ならば」と勝負を持ち掛けて、深く考えず応じたが運の尽き…「先にイった方の負けね」と押し倒され、初戦にて即敗退した。

 そんな訳で私は彼の姓になり、いよいよ二人の姓名は似通ったものになってしまった。
 職場にも剣道部にも報告し、祝福してもらえて嬉しかった。私の剣道着の前垂れも、新姓で発注しているところだ。
 しかし学生の中には周にガチ恋していた子がいたようで、私にとんでもない憎悪の目を向けられたりもした。
 要らぬヘイトを買ってしまいゲンナリするも、周は「その恨みを強さに換えてもらおうかな」と部内混合大会なるものを突貫で企画。全員参加のトーナメントで私はガチ恋子ちゃんを撃破し…講師としての面目を保つと共に周の妻としてのポジションを確固たるものにした。
 ちなみに、順々決勝で私は周と当たったものの真剣な周に見惚れてすっ転んでしまい、ペチっと面を打たれて負けた。

「ん?再戦する?」
「もう入籍したでしょ、あと勝てないから」
「じゃあ、勝負抜きで…萌、いちゃいちゃしたい」
昔と変わらない誘い方に、体が熱くなる。
 いそいそとタオルで手を拭いて、ふと明日の予定など思い出す。
「明日、部活でしょ?」
「午後からね。合同だから萌もでしょ」
「そうだけど…そうだから、早く寝たいっていうか」
「なんで、澄まして指導してる萌を見ながら『今朝方まで僕のち◯ぽで鳴いてたのにね』とか考えるの楽しいよ」
「それが嫌なのよ、ばか…それに、明日の夜だって…同じことするじゃない…」
「まーね」
「だから金曜の夜は寝ておきたいって……あの、周…話聞いて、」

 こちらが敵わないと分かっているから卑怯だ。強引な仕草で、それすらも私の好物と熟知していてアプローチを掛けて来る。
「手合わせ願う…なんちゃって」
「ばか、オヤジ」
「僕の竹刀、強いよ」
「知ってる」
「強い男、好きでしょ?」

 やり方はおかしいが概ね同意、
「好き」
と応えて目を閉じた。



 周は私より強くて、それを自覚している。
 でも全能ではない、それも重々承知しているのだとか。

 私と重なりながら、周は
「どっちが勝ってんだかね」
と吐いて眉尻を下げる。

 「周だよ、」と返す私の頭をがっちり掴み、抱きかかえ、
「敵わないんだ、マジで」
と呟き…彼は天を仰いで、ふにゃっと崩れるのだった。



おわり
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