受話器の向こうに、恋。—君の声は、重くて甘い—

茜琉ぴーたん

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 一方、電話を切った北店の真澄は…

「やっちゃった、セクハラだ、訴えられる」

衝動的に発した褒め言葉を、早速悔いていた。


 言ってしまった内容は本心に違いないのだが、言うタイミングも時期も手段も間違えた。

 それどころか職務上の関係性も、プライベートの関係性も履き違えた。

「変な奴だと思われた、本社に通報されるかな…こんなことで全てを失うなんてアホ過ぎる…」

 店は開いたばかりだというのに、真澄はもう既に帰りたくなっている。

 そうでなければ本店へ向かい菫に謝りたい、「出過ぎた真似をしました」と頭を下げたいと思っていた。


 しかし業務以外の事柄について話せた経験が、真澄に少し自信を持たせる。

「(驚いた声、可愛かった)」

 名前と声しか知らない相手の、素の部分を垣間見た高揚感。

 高鳴る心臓に理由を付けるならそれは何だろう。

「…この勢いに乗る」

 真澄は、ポットの受け渡しに自ら赴こうと懇意のフロア長に電話を掛けた。


「…あ、もしもし、大牟田おおむたフロア長、福袋用のポット、あれやっぱり僕が取りに行っても良いですか?……いえ、全然…大丈夫ですから」

真澄は何やかんやと理屈を捏ねて、上司を説得する。

 大牟田は「マジで会いに行くのか」と驚いたが、真澄は

「勢いに乗りたいんですよ」

と繰り返して自分を鼓舞した。
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